表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1099/2797

優秀過ぎる護衛たち

 人間界にいた時から、わたしの友人であるソウは、国の都合で消えなければいけなかった……らしい。


 そこにどんな事情があったのかは分からない。

 法力の才があったために、国の方針で、法力国家へ送り込まれた。


 さらに、それなりの身分だったために、人間界へ行くことになった。


 そして、国のために消えたあの人。


 わたしは、あの人によって助けられたのに、わたしは、あの人を助けることができなかった。

 伸ばされた手を取ることもせず……。


 そんなわたしに、原因の一部であるライトは、「自分を恨め」と言う。

 だけど、彼を恨んだところで、ソウにまた会えるわけではないのだ。


「恨めないよ」


 わたしはそう言うしかない。


 恨むなら何もできなかった自分に対してだろう。


 全ての事情を理解しつつ、その中で様々な手を尽くしたであろう、彼を恨むことなどできるはずはない。


 それに……。


「あなたを恨みたいのは、あなた自身でしょう?」


 これまでのことから考えれば、そうとしか思えない。


「そして、あなたは、わたしに恨まれたいだけでしょう?」


 わたしの言葉に、一瞬、ライトは驚きの顔を見せた。


 だが、すぐに仄暗い表情に戻す。


「そうだ。お前は俺を恨んで、恨んで、恨み尽くした後で、殺せ」


 もうそれは、何度目の願い、いや、懇願か。


 彼は、わたしに「自分を殺せ」と願う。

 だけど、わたしに誰かを殺すことなんてできない。


 誰かを救うこともできない人間が、誰かの命を奪うことなどできるはずがないのだ。


「何度頼まれても、お断りするよ。わたしはあなたを殺さない」


 わたしはそう言いきった。


「それは、あの番犬の命がかかっても……か?」


 不意に、彼は目を細める。


「番犬?」


 そのどことなく、寒気がするような単語であり、同時に何故か黒髪の青年が頭にちらついた。


 そう言えば、眠りにつく前に、彼はわたしの護衛である九十九のことを「駄犬」とか「忠犬」とか、ことあるごとに「犬」呼ばわりしていたっけ。


 そのことは少し、腹立たしく思っている。

 何故、彼は九十九をわざわざ「犬」に例えていたのか?


 わたしが「犬」を苦手としていることを知っているとしか思えない。

 それは、さておき……。


「わたしの護衛が、あなたに害せるような人だと思う?」


 わたしはあえて笑う。


 実際、ああ見えて、九十九は強い。

 相手が、王族であっても怯まないし、簡単に負けるような人ではないのだ。


 それはストレリチアの大聖堂の地下で証明されている。

 九十九は中心国の王族どころか、その頂点に対して一歩も退くことがなかったのだから。


「あの手の人間はやりようがある。わざわざ相手の土俵に立って、力圧しでいくつもりなどない」


 確かに力よりは、策に嵌める方が確実かもしれない。


 だが、それでも、わたしは九十九が簡単に負けるとは思っていなかった。

 彼は素直に見えるが、調略に弱いわけでもないのだ。


 何より……。


「九十九に何かするなら、()()()()()()()()()()()()()()ね」

「いや、それは立場がおかしいだろ。主人が護衛の盾になってどうするんだよ」


 その言葉に、九十九も同じことを言いそうだなとなんとなく、思った。


 でも、そんなこと言われても、わたしからすれば自然なことだ。


 手の届く範囲にいる身内(かぞく)と呼べるほど近しい人間に手を出されても、黙って見ていられるほどお人好しではない。


「護衛が主人の盾になるなら、その逆があっても良いと思う」

「よくねえよ。何のための護衛だ?」

「わたしの精神的な安定と、平穏な日常生活の維持のため……かな」

「お前の護衛の心労がよく分かるような言葉だな」


 どこか呆れたような言葉だが、わたしにとってはとても大事なことだ。


 自分一人で、精神を安定させることは難しいことが、この「ゆめの郷」に来て、よく分かった。


 わたしは脆い。

 そして、精神的に打たれ弱くもある。

 

 それは、誰かに支えられなければ、自分を保てないほどに。

 平穏な日常生活の維持は、わたしには望めない。


 だから、彼らの協力が必要不可欠なのだ。


「自分の幸せのためなら、誰だってそれを守ろうとするでしょう?」

「いや、それ以前に護衛を守る主人というのがおかしいことに気付けよ」

「良いんだよ。護衛を守ることが、結果としてわたし自身を護ることにも繋がるのだから」


 わたしが矢面に立とうとすれば、護衛たちは絶対にそれを許さない。

 さらなる努力をして、未然に防ごうとするだろう。


 わたしが気付かないように、こっそりとひっそりと。

 彼らがそれだけの価値を、わたしに見出していることを知っているのだから。


 結局のところ、彼らのためではない。

 自分のためなのだ。


「随分、強かな考え方を持つようになったんだな」


 わたしの結論を聞いて、何かを察したのか。


 ライトはそんなことを言った。


「そう? わたしはもともとこんなもんだよ」


 自分勝手な考え方で、我が道を貫く。


 そんな主人に振り回される護衛は、たまったものじゃないだろうが、彼らはわたしの要望に応えてしまうだけの力を備えている。


 だから、ますます主人は図に乗ってしまうのだ。

 彼らに甘えれば、大半のことは何とかなると信じて。


「だから、性質(たち)が悪い」

「ぬ?」

「俺は、お前に殺されたいのに、お前やその護衛たちはそれを許さない」

「真っ当な神経があれば、主人の手を汚させたい護衛の方が少ないと思うけど」


 わたしはライトの言葉に溜息を吐いた。


 確かに、世の中にはそれを許すような人間がいることも知っている。


 だけど、彼らはそれを望まない。


 どちらかと言えば、わたしが手を汚すぐらいなら、自ら、血塗れになることも厭わないだろう。


 だから、わたしは彼らに恥じない生き方を進むのだ。


「真っ当な神経があれば、近付く敵を排除した方が圧倒的に楽なはずなのだが……」

「単純にあなたのことを()()()()()()()()()()からじゃないの?」


 九十九はともかく、雄也さんの方はそんな感じだったような気がする。


 いや、九十九も口では警戒しているっぽいけど、実際はそこまでだとも思っている。

 そうじゃなければ、近付くことすら許さないだろう。


「お前……」


 何故か脱力したようなライト。


 わたし、何か変なことを言ったかな?


「相変わらず、呑気だな。番犬たちの苦労が本っ当に、偲ばれる」


 しっかり、「本当」を強調された。

 わざわざ小さな「っ」の字を間に入れるほどの強調っぷりだ。


「護衛たちがしっかりしているから、わたしが呑気に過ごせるんだよ」


 それは本当のことだ。


 彼らがいてくれるから、わたしは自分のやりたいようにできるのだから。


「従者が優秀なのも良し悪しだな」

「そう? 優秀なのは良いことでしょう?」

「普通は、従者があまりにも優秀過ぎるのは良くないことだ」

「なんで?」

「主人が怠けるだろ?」

「まあ、確かに?」

「いや、そこは突っ込めよ。お前は従者の優秀さに胡坐をかいて怠けるタイプじゃないだろ? どちらかと言えば、奮起してもっとやる気を見せるヤツだ」

「それはちょっと買いかぶり過ぎじゃない?」


 わたしは結構、怠けている気がするのだけど……。


「前々から思っていたけど、あなたって、結構、わたしの評価高いよね?」

「そうか? 至極、当然の評だと思うが。お前の『忠犬』たちも似たようなことを言うと思っているぞ」

「九十九も雄也さんも、わたしの評価に関しては結構、甘いから、あまり、参考にならないよ」


 普段は二人とも冷静なのに、そこが不思議でならない。


 特に、九十九はともかく、雄也さんが目を曇らせるのは意外だと思うけど、実際、わたしに対して、評価が甘く感じるのだから仕方がない。


 わたし自身は何も覚えていないけれど、幼馴染ってことで、多少、色眼鏡となってしまうのだろうか?


 そんなわたしを見て、ライトがどう思ったのか……。


「お前自身が気付いているかは分からんが、あの護衛たち、かなり強い呪いがかかっているだろ?」

「呪い!?」


 突然の言葉。


 だけど、聞き捨てならなかった。


「知らないのか?」

「知らない!! 聞いたこともない。どんな呪いかは分かる?」

「少なくとも、兄はともかく、弟はその心を縛りつけられるほどの呪いを掛けられているはずだ」

「心を……、縛り付けられる……?」


 それって、もしかしなくても……、「命呪」のことだろうか?


 だが、それを具体的に口にすることは出来ない。


 九十九の彼女さんだったミオリさんの話では、わたしの姿になるだけで、有効になってしまったのだ。


 つまり、それを誰かに知られただけで、九十九や雄也さんにとっては、最大の弱点となるだろう。


「心当たりがあるようだな」


 できるだけ、顔に出さない努力はした。


 だけど、わたしの表情で何かを掴まれてしまったようだ。

 夢の中でまで、自分がどんな表情をしているかなんて分からない。


 それなら、いっそのこと、開き直るしかない!


「詳しくは言えないのだけど、仮に彼らに強い縛り……呪いみたいなものが施されているとしたら、どうすれば解ける?」


 ずっと誰かに、聞いてみたいと思っていた。


 九十九や雄也さんは恐らく、教えてくれない。


 水尾先輩や真央先輩には聞くことができない。


 母や、ましてや、その呪いを施した相手に尋ねるなんてできない。


 本来は、わたしを護るためのもの。

 だけど、その強い縛りは、彼らとの間に明確な線を引いている。


「その呪いについて、情報が足りないのではっきり言えないが……」


 それは当然の話だ。


 わたしでも、情報が足りなすぎると思う。


 それでも、ライトはそれ以上の情報を追求しようとしないでくれた。

 その上で、彼はこう口にする。


「神ではなく人が施した呪いならば、解けなくはないはずだ」


 そんな福音のような言葉を。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ