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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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おかしな思考

 結論から言うと、九十九の日課は凄く面白かった。


 その動きとかは凄く早かったから、こっそりやろうと思っていたスケッチは出来なかったことが残念だけど、邪魔するわけにはいかないから、仕方ないね。


 ただ、いつもよりも薄着だったので、凄く目のやり場に困った。


 何だろう?


 上半身裸の状態より、黒のノースリーブ姿って、妙に筋肉を強調すると言うか、変な色気を感じると言うか?


 広背筋とか、三角筋のラインに、自分がここまでときめくとは思ってもいなかった。


 絵や写真で見ても、そこまで感じなかったのに、こう目の前にあるとまた違うもんだね。


 わたしは、筋肉があまりついていない細身の殿方が好きだと思っていたけれど、どうやらそうでもなかったらしい。


 中学二年生の時、クラスに筋肉好きな女子がいて、筋肉について熱く語る姿は少し不思議だと思っていたけれど、今なら、その気持ちが分かってしまう気がする。


 立体感、恐るべし!


 その九十九は今、昼食の準備をしている。

 その黒のノースリーブのまま。


 汗をかいたからシャワーを浴びているけど、トレーニング直後って熱いから薄着になりたいらしい。


 料理する時にも、腕、いや、肩に目がいく。


 たまに見える後ろ姿も良い。

 そして、エプロンというアンバランスさ。


 わたしの護衛は今日も全てにおいて大変、魅力的だ。


 片付けを含めた御掃除は、少し苦手らしいけど、彼の弱点って、それぐらいじゃないかな?


 それ以外なら、ちょっと過保護な点?


 なんで、こんな高レベル男性がわたしの護衛なんかやっているんだろう?

 改めてそう思う。


 そして、それはその兄である雄也さんも同じだ。


 彼らは、わたしのせいで婚期を逃しそうな気がする。

 大変申し訳ない。


 そうなると、わたしが責任を取る必要があるのだろうか?

 いや、その考え方は彼らに失礼な気がするな。


 これだけ、魅力的な人なのだ。

 是非、自分でもっとつり合う女性を見つけて欲しい。


「何、百面相してんだ?」


 不意に料理を持った九十九から、声を掛けられた。


 両腕にお皿を持っているため、肩から腕にかけて剥き出しになっているラインが強調され、妙に目が行ってしまう。


 これまで意識していなかったのに、なんでこんなに気になるのだろう?


「ん~、男性の魅力についてちょっと考えていた」

「お前、時々、若宮みたいな阿呆なことを言うよな」


 九十九は呆れたように言うが、それは、なかなかワカに対して酷いと思う。


 それに……。


「え~? 女性が男性について考えるのって阿呆?」


 そのこと自体は一般的だと思うのだけど?


「思っても、口に出すなよって話だ」


 まあ、確かに……。


「でも、九十九は女性の魅力について、考えることってないの?」

「……聞くなよ」


 躊躇いがちに答えられた。


 どうやら、あるらしい。

 まあ、青少年だからね。


 わたしが考え付かないような方向性のことを考えていても不思議じゃないのか。

 それに、「発情期」中の彼の行動を考えると……。


「それで、どんな魅力について考えていたんだ?」

「へ?」


 思考が中断されて、一瞬、何のことか思い出せなかった。


「男性の魅力ってやつ」


 ああ、その話題か。


「漫画とかに出てくる二次元の男性の魅力と、三次元の男性の魅力は別のものだな~っと思っていた」

「比較対象がおかしい」

「仕方ないじゃないか。わたしの周囲にはそれほど男性がいなかったんだよ。でも、魔界に関わるようになって、気付いたら、異性と一緒のお布団で寝るようになるなんて、数年前には考えもしなかった」


 まあ、その「一緒にお布団」だって、緊張してなかなか眠れなかったのだけど……。


「オレだって、考えてもなかったよ」

「そう? 九十九はわたしがいない方が、女性にモテそうな気がするのだけど……」

「不特定多数にモテても、嬉しくねえ」


 おや?

 少し前と答えが違った気がした。


 以前、似たようなことと聞いた時は、「オレはモテない」と自分で言っていた気がするのだけど……?


「どなたか、特定の女性がいらっしゃる?」


 なんとなく、そんな気がした。


「逆に聞くが、お前は誰でも良いのか?」


 九十九にジロリと睨まれる。


「良くないねえ」


 誰でも良ければ、もっと答えは簡単に出たことだろう。


 誰でも良くないから、わたしは迷いやすいのだ。


 でも、迷いやすいってことは、わたしにはまだ特定の異性はいないってことでもあるのかな?


 特定の異性がいれば、多分、こんなに迷うことはないよね?


「この『ゆめの郷』に来て、いろいろと思うところがあったんだよ。変な女から好意を寄せられるのはマジで勘弁して欲しい」


 その妙に実感が籠った九十九の言葉に、ふと黒髪の女性を思い出した。


 確かに……、あの人の執念とかそう言ったものを見た後だったから、彼の考えも変わったのかもしれない。


「阿呆なことを言ってないで、冷める前に昼食、食え」

「うん」


 そう言いながら、九十九から昼食を受け取ろうとして、手が触れる。


「………」


 少し、ドキリとした。


 彼と手が触れるのなんか珍しいことでもないのに……。


 肩が見えるその服装が、わたしの心臓に悪いせい?


「どうした?」

「いや、ノースリーブなんて、珍しいよね?」

「ああ、この格好、動きやすいんだよ。トレーニング中はこんな感じだな。本来なら、どんな格好でも動ける方が良いんだけど、すぐ、汗をかくからな、オレ……」


 ああ、確かに、九十九はすぐに発汗している。


 普段は、そこまで意識をしていないのだけど、高熱を伴うような行為だと、それが分かりやすい……って、なんだろう?


 今、思考がちょっとおかしいかも。


 2人きりの時間が長いせいか。

 妙に、ずっと九十九を意識していると言うか。


 しかも、さっきはうっかり、「発情期」のことを思い出してしまった。


 あの時のことは、思い出してはいけないのに……。


「どうした? 口に合わなかったか?」

「い、いや! 美味しいよ!?」


 九十九の料理が、わたしの口に合わなかったことはない。

 自分で作るよりずっと美味しいのだ。


 彼に変な気を使わせてしまった。


「それなら良い」


 九十九がそう言って、笑う。


 なんで、いつも彼の笑顔はこんなにも優しいんだろう?

 彼が護衛でなければ、誤解しそうになるね。


 何度も彼自身から、線を引かれていて良かったと思う。

 あそこまで、恋愛対象外扱いされていれば、誤解のしようもない。


「午後からはどうするの? またトレーニング?」

「いや、ここからは報告書の作成だな」


 ああ、それも確かに九十九の日課の一つだ。


 昨日も書いていたけど、今日は昼から書くのか。


「『今日は何もありませんでした』って書くの?」

「どこの小学生の絵日記だ?」


 九十九が呆れたように笑う。


 でも、なんとなく、突っ込みにキレを感じない。


「何もない時はなんて書くの?」

「言っておくけど、何もない日なんて、ないからな?」

「う?」

「一見、変化がないような日でも、いろいろとある。どう変化がなかったかも含めて、僅かな差異も見逃さないようにする必要があるんだよ」

「ふ~ん」


 それを聞いて、九十九は観察日記の書き方とかも上手そうだと思った。


「お前の絵と一緒だと思うぞ」

「へ?」

「想像した時、見た時、触れた時で絵の描き方が変わるのは、現実との差異を見つけ出し、その表現を変えているんだろうな」

「そんなの……、考えたこともなかったな」


 そこまで深く考えて絵を描いたことがない。


 ただ……、なんとなくここはこうした方が良いかなと思って描くだけだ。


 そして、わたしの絵はまだ安定していない。

 その時、その時の感覚で同じ構図、同じお題でも、全く、違うものとして完成してしまう。


「深く考えないで絵が描けるのがすげえよ」

「わたしとしては、分かりやすく文章を纏める技術も凄いと思うよ?」


 そう考えると、九十九は小説家に向いている気がする。


 いや、九十九は文系のように文章表現も豊かだけど、理系のように計算された理論もいける人だ。


 何気に万能型?


「じゃあ、わたしは報告書を書いている九十九の傍で、絵でも描きますかね」


 ついでに貴重な黒のノースリーブ姿を目に焼き付け、いや、紙に描き付けさせていただきましょうか。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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