表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1065/2801

暗闇効果

 暗い闇に沈黙が落ちる。


 当然ながら、落ち着かない。


 ソウに抱き抱えられて運ばれた時も、かなり緊張したのだけれど、自分の意思で、誰かと同じ布団にちゃんと収まったのは、多分、初めてだと思う。


 勿論、無意識、寝ぼけた状態は除く。


 でも、意識して、異性と同じ布団で寝るって、こんなにも緊張するものなのか。

 それとも、その相手が九十九だから?


 いや、わたしは多分、横にいる男性がソウでも、雄也さんでも、同じように緊張すると思う。


 寝つきは悪くない方だと思っていたけれど、やはり、こんな状況では、眠られるはずもないらしい。


 九十九は、どうだろうか?

 静かだけど、寝ている気はしない。


 もともと、彼は護衛だから、襲撃の可能性があるような状況では、あまりゆっくりと休めないかもしれない。


 せめて、わたしが、もっと身を護るための魔法を使うことができれば、彼は休めるだろうか?


 いや、休まないね。

 人任せにするのは苦手な九十九だ。


 そして、ありがたいことにわたしの護衛でいることや、自分の仕事に対して誇りに思う人間だ。


 それを思えば、簡単に休んでくれる人とは思えない。


 思わず深い息を漏らした。


「眠れないのか?」


 すぐ横から声がした。


 周囲がよく見えないせいか。

 視覚が働かない分、聴覚が鋭くなっているみたいで、彼の低い声がよく聞こえる。


 いや、これは、距離のせいもあるかもしれない。


 この寝台は二人が寝ても余裕があるほど大きな物ではあるが、それでも、いつもより九十九が近くにいるのだから。


「ちょっとね」


 彼が横に寝ているために緊張しているせいとは言いにくい。


 それは、九十九は何も悪くないのに、彼のせいにしているっぽい気がするのだ。


「オレは横にいない方が良いか?」


 わたしが何も言わなくても、九十九は雰囲気で何かを察したのか、身体を起こした気配がする。


「い、いや、大丈夫!」

「でも、眠れないだろ?」

「大丈夫!」


 何が大丈夫なのか……。


 彼にそう答えている声だって、いつもと違うのが自分でも分かるぐらいなのに。


「だけど……」


 尚も、わたしを気遣う九十九。


「大丈夫だってば!!」


 そう言って、少しだけ暗闇に慣れた目を凝らして、彼の腕を掴む。


「大丈夫だから、わたしの横にいて!!」


 指定されたような「いちゃいちゃ」行為というのは無理でも、せめて、一緒の布団で寝ないと意味がないだろう。


「お前……」


 そう言いながら大きく息を吐いた後、九十九はもそもそと布団に戻ってくれる。


 でも、どうしたら眠れるのだろう?


 羊を数えたらよい?


 それとも、数学の公式を思い出す?


 歴史年表を辿っていく?


 古典の暗誦?


 うぬぅ……。

 いつもわたしはどうやって寝ているっけ?


 そんな根本的な疑問に行きついてしまった。


 すぐ横で、大きな息が漏れる音がする。

 呆れているよね?


「栞……」

「ひえっ!?」


 すぐ近くで、色気のある低い声がした。


 暗闇のせいか、すっごくよく聞こえてしまって、思わず声が上がる。


「このままじゃオレが眠れんから、また薬草茶でも飲むか?」

「ふ?」


 九十九が、眠れない?


「横で、起きている気配がどうも気になるんだよ」

「そうなのか」


 確かに護衛としては、護るべき主人が落ち着かないのは問題かもしれない。


 でも、この状態は、薬草茶を飲んだぐらいで治まってくれるとは思えなかった。


 確かにあのお茶は落ち着くけど、また同じ布団に収まれば、同じように緊張は復活してしまうだろう。


「じゃ、じゃあ、わたしに『誘眠魔法』を使って!」

「それだけ警戒心バリバリのお前だと『誘眠魔法』を弾き返すと思うぞ」

「うぐっ!!」


 こんな時は、自分の強すぎる魔法耐性が恨めしい。


「眠れないんだろ? お前が寝るまで、離れておくよ」


 そう言いながら、再び、横で九十九が上半身を起こす気配がする。


 どうして、いつもは彼の傍で安心して眠れるのに、今日に限って、眠くならないのだろう?


 どうしたら……?


 そこまで考えて、わたしは一つの結論に達した。


「九十九!!」

「な、なんだ!?」


 わたしの呼びかけに、彼は驚いたような反応をする。


「ちょっと落ち着かないんだよ」

「分かってるよ。だから……」

()()()()()()!!」

「は……?」


 わたしの説明が足りないせいか、彼は訝し気に問い返した。


「ぎゅっとして、『なでなで』して!!」


 それなら落ち着くことができる気がする。


 実際、彼に抱き締められると落ち着くのだ。


「お前……」


 何かを言いかけて、またも大きな息を吐いた。


「このまま抱き締めて、頭を撫でれば良いんだな? それ以上はしないからな」

「うん!!」


 それ以上を望んでいるわけではない。


 わたしはただ、落ち着きたいだけだ。


 暫く、動かなかった九十九が、ゆっくりと体勢を変える気配がして、わたしの心臓が跳ねた気がした。


 大丈夫。

 心臓は、身体からはみ出ていない。


 いつもより早く動いているだけ。

 ちょっとばかりお仕事熱心なだけだ。


「嫌なら言えよ?」


 かなり近くで声が聞こえる。


「わたしから頼んでいて、それはないよ」


 この鼓動の早さと、顔の熱が伝わらないかが心配だけど……。


「あと、暗くて見えにくいから、その……、手が変な所に触れたら、悪い」


 うおうっ!?

 確かに、真っ暗だから、その点はある程度目が慣れても仕方ない部分はあるかもしれない。


「えっと、できる限り、気を付けて……?」

「分かった」


 そう言って、彼の手がわたしの肩に触れた。


 その部分から、発火しそうなほどの熱を感じる。

 それが肩だと分かったようで、ゆっくりと手が差し込まれる。


 いつもの抱擁と違って、妙に緊張する。


 それが、暗くて表情が分からないせいか、いつもより慎重になっているため、動きが緩慢になっているのかは分からない。


 なんだろう?

 彼が「発情期」中に、わたしの素肌に触れた時よりも、ずっと緊張している。


 そして、服の上からなのに、彼の身体の熱もいつも以上に感じる気がした。


 暗闇効果って凄い。


 少し、重さを感じたかと思った時、ぎゅっと抱き締められた気配がする。


 だけど、こんな状態で落ち着くって、無理だね!!


 分かりやすく心臓の動きがおかしい!!

 こんなに早く動いたら、壊れちゃうかも!?


 だけど、ゆっくりとわたしの頭で何かが優しく動く気配がした。

 たどたどしいけれど、しっかりとした大きな手のひらの動き。


 姿は影くらいしか分からないけれど、その手の優しさと熱はよく知ったものだった。


「安心する」


 身体から、ゆっくりと力が抜けていく気配がする。


「この状況で、安心するなよ」


 その安心感を与えてくれた護衛は間近でそんなことを言う。


「九十九にも『なでなで』しようか?」

「遠慮する」


 遠慮されてしまった。

 しかも即答だった。


 でも、本当に気持ちが良い。

 完全に緊張が解けたわけではないのだけど、張っていた気が緩んでいくのが分かるぐらいに。


「落ち着く」

「いや、だから、この状況で落ち着くなよ」

「この状況だから落ち着くんだよ」


 九十九に抱き締めながら、頭を撫でられる……。


 それだけで、自分の身体から空気が抜けるような心地よさがある。


「お前、オレの性別を本っ気で、忘れてるだろう?」

「いや? 多分、ワカや水尾先輩でもこんな感覚にはならないと思うよ」


 この雰囲気は九十九だからだ。

 それはよく分かった。


 そして、ソウや雄也さんでも、この居心地の良さは出せないだろう。


()()()()()()、気持ち良いんだ」


 その言葉に嘘や偽りはないのだけど、それが、彼の中にある何かを刺激してしまったようだ。


「こんの阿呆女~~~~~!!」


 何故か、叫ばれた。


「アホって……」


 その自覚はあるけれど、毎度、改めて指摘されると腹が立つのは何故だろうか?


「前々から思っていたけれど、お前の言葉は不用意すぎる! オレが誤解したら……、いや、この状況で今の言葉を誤解するなっていう方が、絶対的に無理がある!」


 ぬ?

 誤解って何のことだろうか?


「布団の中で、男に抱き締められながら『気持ちが良い』とか抜かすな」

「おおう」


 た、確かに、捉え方によっては、かなり際どい台詞に思える。


 だけど、本当に気持ちが良いのだから、仕方ない。

 そして、どう言えば、彼に真意が伝わるだろうか?


「でも、リラックスはできたみたいだな」


 ああ、そう言えば良いのか。


「肩の力は抜けたし、身体も柔らかくなっている」


 そんな九十九の言い方も結構、アレな気がするのはわたしだけでしょうか?

ここまでお読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ