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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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素直だけれど

「空属性は……難しい?」


 真央先輩が、わたしの言葉をそのまま口にする。


「はい」


 わたしはその言葉に素直に答えた。


 空属性、天候ではなく、空間に関する魔法。


 具体的に言えば、自分の持ち物をどこかに収容したり、その逆に取り出したりとか、自分自身が別の場所に移動したり、先ほどのトルクスタン王子のように結界を張ったりするような魔法だ。


 そして、魔界人であれば、生物はともかく物質召喚系は意識しなくてもできることが多いらしい。


 でも、わたしは「魔界人」ではない。


 流れる血の話ではなく、これは考え方。

 意識の問題だと思う。


 自分が、別の場所に移動することも、物質を召喚させることも、あまりイメージできないのだ。


 結界にしても、わたしが上手く張れるとは思えない。


「そんなに難しいことか?」


 トルクスタン王子は首を捻る。


「空属性に関しては、最高クラスの人間だからね、トルクは……」


 真央先輩は、相変わらずトルクスタン王子に後ろから抱き締められている図のままだ。


「でも、できないものは出来ないのだから仕方ないよ」


 そう言って真央先輩は笑ってくれた。


「それもそうだな。誰にでもできないことはある」


 トルクスタン王子もすぐに納得はしてくれた。


 もう少し、突っ込まれるかと思っていた。


 なんで? どうして? って。

 でも、二人はこれ以上、踏み込もうとはしない。


 それは、同じように踏み込まれたくないものを抱えているためなのだろうか?


「それじゃあさ、高田」

「はい」

「精神系の魔法は出来そう? 誘眠とか、混乱とか、操縦とか……」

「おいおい、マオ……。例に出された魔法が明らかに不穏なものばかりだぞ」


 トルクスタン王子はどこか呆れた口調でそう言った。


「『誘眠魔法』は、九十九には効きました」


 それを根に持たれて、暫く経った後に、同じことをやり返されたわけだけど、魔法としては成功したのだ。


「それは凄い。九十九くんの行動をこれまで見た限り、精神力はかなり強そうなのに……」

 真央先輩は感心するように頷いた。


「あ~、ツクモはかなり強そうだな。ユーヤとは別方向で」


 トルクスタン王子は何故かわたしを上から下まで見る。


「『発情期』で、目の前にいる異性に手を出さないなんて、並の精神力じゃない」


 ああ、なるほど。

 確かに、「発情期」中は、欲に負ける男性ばかりだとあちこちで聞いている。


 そう言った意味では、九十九の自制心は異常なものなのだろう。


 それだけ、わたしに手を出したくなかった……ってことなのだろうけど……。

 いや、それでも……。


『お前、一度、オレから押し倒されているのに分からんのか?』


 そんな声が耳に蘇る。


『お前が女の自覚に欠けるような行動をしていたら、危険がないとは言いきれねえんだよ』


 困ったようなわたしの護衛の声が……。


「おや?」

「お?」


 真央先輩とトルクスタン王子が同時に声を漏らした。


 わたしの顔が熱を持ったことが分かる。


 2人はそれを見て、反応したのだろう。

 そのことが凄く恥ずかしいことのような気がして、わたしはますます発熱した気がした。


「おやおや~?」


 真央先輩の表情が、柔らかくなる。


 それは、これまでに見たこともないほど優しい笑みだが、同時に生温い視線も感じる。


「なんだ、シオリはツクモに惚れたのか。もう少し早く気が付けば双方何も問題がなかったのにな」


 そして、トルクスタン王子は真央先輩を抱き締めた状態で、とんでもないことを口にした。


「いやいやいやいや! ありえない! ありえません!」


 わたしは慌てて否定する。


 わたしが「発情期」中の九十九に襲われたことは、真央先輩も知っていたし、この様子だとトルクスタン王子にも伝わっているのだろう。


 だけど、それが分かっているのに、どうしてそんな結論に達するのか?


「何故だ? ツクモは良い男だと思うが……?」


 そんなことは知っている。


 でも、そんな話ではない。


「わたしたちは対等ではありません。九十九が、わたしの護衛である限り、そんな関係になる気はないです」


 そして、彼はあの「誓い」をわたしに行った。


 アレは、好きとか嫌いとかそんな浮ついた話ではなく、もっとずっと重い感情(もの)

 彼はどこまでも強く深くわたしの護衛であることを誓ってくれたのだ。


「だが、シオリ。それは……むぐっ」


 トルクスタン王子がわたしに向かって何か言おうとして、何故か真央先輩の手で口を塞がれた。


 そして……。


「九十九くんは優秀な護衛だからね」


 そう言ってくれたので……。


「はい! わたしには勿体ないぐらいです」


 素直にそう答えたのだった。


****


 高田の魔法を一頻り見せてもらった後のこと。


「何故、先ほど止めた?」


 トルクが私に鋭い目を向けた。


「そろそろシオリにも自覚を促した方が良いだろ? 今のままでは男として、ツクモがあまりにも哀れだ」


 そうだろうか?

 あの護衛青年ならば、そんな状況でも、嬉々として受け入れそうな気がする。


 でも……。


「憶測で物を言うのはトルクの悪い癖だよ」


 私は用意していた言葉を返すことにした。


 トルクは王族として少しばかり素直過ぎる所がある。

 その点、妹であるミオも似たようなものなのだが。


「あそこまで露骨なのに憶測だと思うか?」

「憶測でしょう? 当人は結局、何も言ってないよ?」


 私がそう答えると、トルクは露骨に不服そうな顔をして見せる。


 あの時、高田は「彼が自分の護衛である限り」と言ったのだ。

 それは、言い替えれば、護衛でなくなれば何も問題ないと言う意味にもとれる。


 でも、彼女自身はそれを意識していなかったのだろうけど、無意識にそう思っているということに意味がある。


 そこをトルクが指摘しようとしたのが分かったから、私は彼を止めたのだ。


「仮にシオリが想っていれば、ツクモはあれほど悩まずとも良かったのではないか?」

「それもどうだろうね。彼も自覚は遅かったみたいだし」


 あの護衛青年が自らの気持ちに気が付いたのは、恐らく、「発情期」を発症した時よりも後だろう。


 自身がかなり強い痛みを伴うことで、あの青年はようやく、自分の封じ込めた想いに気が付いたのだ。


 そして、その自覚後は露骨にその態度を変えた。


 見ているこちらが照れてしまうほど不器用で純粋な表現だけど、だからこそ素直で分かりやすい。


 それでも、鈍い後輩はそれすら気付かない。


 いや、もしかしたら本当は気付いているかもしれないけれど、互いの事情から気付かないふりをしている可能性もあるのかな。


「どちらにしても、それらは当人たちの問題で、関係のない第三者の私たちが口に出して良いものじゃないよ」


 私がそう言うと、トルクは押し黙った。


 こんな所は本当に素直だと思う。

 王族としてはどうかと思うが、人間としては悪くない。


 だけど、第三者に指摘されて気付くよりは、当人が自分でその「何か」に気が付いた方が、ずっと素敵なことなんじゃないかな?


 少なくとも私はそう思うのだ。

 まあ、これまでのことを思えば、もっと拗れる可能性も否定できないとも思うのだけど。


「それより、あれからどうなったの?」

「ああ、思った以上に面倒な話になったが、ようやく、片が付きそうだ」


 私が話題を振ると、トルクは自然に反応した。


 その表情は読みにくいが、私は体内魔気でなんとなく分かる。

 そこには、明らかに、安堵と歓喜の色が見えた。


「そう。これで、少しはここもマシになるかな」

「なってもらわないと困る。なんのために俺が通っていたのか分からない」

「単なる趣味でしょう?」

「………」


 私の言葉にトルクは閉口する。


「そこは否定して欲しかったかな」


 私がそう笑うと……。


「趣味の悪い揶揄いだ」


 彼は苦笑したのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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