それぞれの属性
「高田、魔法力は?」
「まだ大丈夫です」
さっきの「大鳥」は、結構、魔法力を持っていった気がするが、その前の「テンペスト」ほどじゃない。
それに、それでもいつもやっていた「魔気の護り乱れ撃ち」に比べれば、どちらも消費魔法力はずっと少ない気がした。
改めて、あれって本当に無駄撃ちだったんだなと思う。
「大丈夫なのか……」
トルクスタン王子が何故か呆然としている。
わたしの魔法力は、ストレリチアの大聖堂内で水尾先輩から、セントポーリア城で国王陛下から直々に魔法を撃ちこまれているためか、王族としてもかなり多いと雄也先輩から言われている。
恐らくは、そのせいだろう。
「トルク、この調子で結界は大丈夫そう?」
「ああ、お前を抑えるぐらいなら」
抑える?
真央先輩を護るための結界じゃないの?
「じゃあ、『暴風魔法』をもう一度やろうか」
「「へ? 」」
真央先輩の提案に、わたしとトルクスタン王子の声が重なった。
「栞は『暴風魔法』を使えるのか?」
「見た目だけなら?」
トルクスタン王子の問いかけにそう答えるしかない。
「見た目だけ?」
わたしの答えを聞いて、トルクスタン王子は顔を顰めた。
その顔はどこか、懐かしい同級生を思い出す顔。
もう遠い記憶過ぎて思い出すことも減っていたのに、少しだけ顔の造りが似ているせいか、トルクスタン王子を見ていると不意に重なる時がある。
「今度は、『暴風魔法』の詠唱無しで、そうだね。先ほどまでの変わった詠唱でできる?」
「『テンペスト』の詠唱無しで……?」
うぬぅ。
最初に見たのがあの詠唱だったから、それを無しとするなら、もっとイメージを強く持つ必要がある気がする。
「やってみます」
今のままでは「風魔法」止まり。
それなら、イメージをもっともっと強く、強く!
あの時、九十九を吹っ飛ばした暴風は……。
『暴れろ、風の渦!』
わたしはもっと分かりやすい言葉に変えた。
大体、「テンペスト」なんて、好きだったゲームにも出てきた言葉で、そのイメージがどこかで邪魔をするのだ。
それなら、見たままの魔法を口にした方が良い。
わたしの言葉とともに、全てを飲み込まんとするような風が巻き起こり、激しく周囲の空気を激しく翻弄する。
あ、あれ?
なんとなく、前、見たよりも、ちょっとばかり、強いような?
「トルク! 結界強化!!」
「分かってる!!」
真央先輩の叫びに、トルクスタン王子が応え、二人が目に見えて分かるぐらいの藍色の光に包まれる。
そして、ほんのり、真央先輩の周囲が碧く揺れ……。
「「あ……」」
真央先輩とトルクスタン王子の声が重なった。
「ヤバ……」
真央先輩がそんな声を漏らして……。
「ごめん! 離れて!!」
そんな言葉と共に、碧い炎が舞い上がり、周囲を青色の世界に染め上げると……。
「ぐあっ!!」
「うわっ!?」
容赦なく一気に焼き尽くそうとする。
だが、その熱を感じる直前に、わたしの周囲からも、竜巻が巻き起こって、その青い世界を吹き飛ばした。
「いや~、ここの結界、凄いね~。これだけやってもびくともしない」
真央先輩がにこやかに笑いながら、風で乱れた自分の髪を整える。
「お、お前ら、二人して『魔気の護り』が激しすぎる!!」
トルクスタン王子がよれよれになりながらも、そう言った。
それでも、トルクスタン王子はわたしが先に放った魔法にも耐え、さらには真央先輩の「魔気の護り」を至近距離で受け、その上、わたしの「魔気の護り」にも巻き込まれかけたと言うのに、怪我はしていない。
やはり、中心国の王族と言うのは、それだけで凄い存在らしい。
「思ったより、高田の魔法が強力だったのと、トルクの結界がちょっとだけ弱かったのが失敗だったかな」
「普通、シオリが『暴風魔法』を使える人間だなんて、思わんからな!! 適正がある人間が少ないんだ」
えっと……?
つまり、普通の魔法ではないらしい。
「『暴風魔法』は上位魔法だね。知らずに挑戦しているのが高田らしいけど」
「知らずに挑戦って……」
真央先輩の言葉に、トルクスタン王子がどこか不思議そうな顔をする。
「高田、先ほどの魔法力はどれぐらい消費した?」
数値化しろということかな?
でも、自分の魔法力の何割とかよく分からない。
「最初にやった『テンペスト』ほどは、魔法力を消費していないと思います」
威力は確実に後の方が上だった。
でも、何故か自分から引き出された魔法力はそこまでではない気がする。
不思議。
「ふむ……」
真央先輩が考え込む。
「高田、余力はありそう?」
「はい」
確かに先ほどから魔法の連発をしているが、やはり、「魔気の護り乱れ撃ち」を連発した時のような疲労感はない。
「まだやるのか?」
トルクスタン王子がどこかげんなりとした顔を見せる。
「うん。折角だからね。でも、トルクがもう無理って言うなら止めるよ? 高田が魔法を放つたびに、私の『魔気の護り』が発動するのも困るからね」
そう言って、真央先輩が笑う。
どうやら、彼女がわざわざトルクスタン王子を呼んで、結界を張らせたのは、自分の「魔気の護り」が暴発しないようにするためだったようだ。
考えてみれば、わたしも魔力を封印されている時から「魔気の護り」は出ていたらしいし、魔法がうまく使えないからと言って、「魔気の護り」が働かないというわけではないってことだね。
「マオはもっと見たいんだろ? シオリの身体が大丈夫なら、俺ももう少しだけ付き合う」
そう言って、トルクスタン王子は再び、真央先輩を後ろから抱き締める。
何度見ても、照れてしまうね。
当事者たちは全然気にしていないみたいだけど。
「じゃあ、高田。風と火、光以外の3属性魔法を頼める? 威力はなくて良いから」
「はい」
威力のない3属性。
えっと、地、水、空だっけ。
「何故、その3属性なんだ?」
「他はもう高威力を見たから。それに、高田はその3属性に馴染んでいる。だけど、残った3属性は、高田もあまり関わらない属性なんだよ」
「火と風はともかく、光も……か?」
「笹ヶ谷兄弟は光属性魔法が得意みたいだからね」
真央先輩とトルクスタン王子のごく普通の会話に少しドキリとした。
雄也さんと九十九には、情報国家イースターカクタスの王族の血が流れている……らしい。
九十九は確認したことはないけど、少なくとも雄也さんは確認する機会があったから、恐らくは間違いないのだろう。
そうなると、光属性大陸の血も流れているわけだ。
思い出してみれば、九十九は風属性の次に、光属性の魔法をよく使っている気がする。
それって、無意識のまま、その身に流れている血に影響されているのかもしれない。
もしかしたら、真央先輩は気付いている?
水尾先輩よりも体内魔気に敏感な人だ。
その可能性は否定できない。
「ああ、でも、水も見たか。それなら、地と空かな」
確かに真央先輩には、手に湧き出た水を見せたね。
でも、あれで良かったのかな?
他の魔法と比べて迫力はなかったのに。
地属性は、大地に関する魔法だ。
具体的には自然にあるもの。
草木などの植物や石などの鉱物に関するものが主だと聞いているが……。
ああ、でも地属性も、見本があった。
『突き刺せ』
わたしはそんな言葉を言った。
「「は? 」」
真央先輩とトルクスタン王子が驚いた声が重なる。
でも、仕方ないじゃないか。
わたしが知っている地属性の魔法ってこれぐらいなのだから。
わたしの言葉と共に、地面から無数の枝が伸びて、籠……、いや、檻のようなものを形成していた。
檻の中には誰もいない。
長い針に見えるが、間違いなく枝だ。
葉っぱも付いている。
そこまで細かく再現されていた。
あの時と違うのは、目標とした対象物は特に何もなかったため、犠牲になった人間がいないことだろうか。
「これは……」
「防護魔法らしいですよ?」
以前、ワカが使ったやつだ。
但し、彼女はそれを使って、わたしを攻撃したことがあるから、本当に元が防護魔法なのかは分からない。
「防護……?」
トルクスタン王子の疑問はよく分かる。
客観的に見ても、防護魔法には見えない。
あの時は、わたしが包まれたから防護とは言えなくはなかったけれど、対象者が誰もいない状態ではただの攻撃魔法……それも串刺し系のエグい魔法にしか見えないかもしれない。
「高田の魔法はいろいろと面白いね」
真央先輩は、地面から直接生えている、数本の枝を手に取って確認する。
「お、おい、マオ」
「大丈夫だよ、トルク。これに害意はないみたいだから」
そう言って、トルクスタン王子に笑いかけた。
「後は、空属性……だね」
そして、真央先輩は枝を折りながら、わたしに向き直る。
だけど……。
「真央先輩……」
「ん?」
自分からこう言うのはどうかと思うけど……、仕方ない。
「空属性はちょっと難しいと思います」
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