表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1047/2800

幼馴染は凄い

「なんで俺がここに呼ばれるのだ?」


 水尾先輩と入れ替わるようにやってきた、トルクスタン王子がやや不機嫌そうな顔でそう言った。


「ミオが九十九くんに突撃していったから。でも、私はまだ高田の魔法を見たかったし、結界を自分で張れないから」


 真央先輩は柔らかい笑顔で微笑む。


「俺は忙しいんだぞ? マオ」

「うん、分かってる。トルクにとって、()()()()()()()()()()。でも、今、ミオのせいで、九十九くんの手が止まることになるから、丁度良いんじゃない?」


 その真央先輩の言葉で、わたしがあの高級宿泊施設に戻らなかった間にいろいろとあったということが分かる。


 でも、九十九の手が止まることと、何か関係があるのだろうか?


「ま、少し、休憩するか。ちょっと気が滅入っていたところだったから」


 トルクスタン王子は渋々と言った形ではあったが、承知してくれた。


「しかし、よくここを見つけたな」


 トルクスタン王子は周囲を見渡す。


 常連だけあって、彼も知っているのだろう。


「この場所は、『ゆめの郷(トラオメルベ)』の夢から覚める場所。()()()()()()()()だ」

「しょっ!?」


 とんでもない言葉が出てきた。


「そうだろうね」


 真央先輩はなんとなく知っていたようで、わたしのように驚きはしなかった。


「ここなら、魔法を使っても外には漏れないし、声も届かないからな。適当だろ?」


 トルクスタン王子は平然と言うが、この場合の、「適当」は「いい加減」という意味ではなく、「適合する」の方ですよね?


 改めて怖いよ、この世界。


「でも、シオリの魔法。『風魔法(wind)』ぐらいだろう? 改めて見る必要があるのか?」


 カルセオラリア城でのことを思い出しているのか、トルクスタン王子はそう言った。


「ちょっと増えたらしいよ」

「なるほど。でも、それをミオが放っておいて、ツクモに向かったのは不思議だな。あいつも興味を示しそうなのに……」


 流石、トルクスタン王子は水尾先輩の幼馴染だけあって、よく知っていると思う。


「もっとミオの興味を引く話を彼が持っていたからだよ」

「……興味?」

「魔法勝負超級編」

「なるほど」


 真央先輩の端的な言葉にトルクスタン王子は納得する。


 いやいやいや?

 今ので何が伝わったの?


 幼馴染って、いろいろ凄くない?


 そう思ったが、九十九も、時々わたしの思考を読むことがあった。

 わたしは全然読めないのに。


「……と、高田の魔法って、その発動が通常の魔法よりずっと早いから、先に結界張ってくれる?」

「分かった。程度は?」

「ミオ対策」

「そんなにか? ああ、そうか。そんなにだな」


 そう言って、わたしを見ながら、トルクスタン王子はその両腕で、真央先輩を包み込む。

 ……って?


「ちょっとトルク?」


 真央先輩が心底嫌そうな顔をする。


「この結界地帯に、マオ一人に結界を重ね掛けするぐらいなら、こっちの方が消費魔法力も少なくてすむんだよ。魔法国家の人間と魔法力量を比較するなよ?」

「王族なのに?」

「王族でも。ミオ級の結界の維持がどれだけ大変か分かるか?」

「……仕方ない。高田、気にせず続きしてくれる?」


 この状態を気にするなと?


 背の高いトルクスタン王子が真央先輩を、一方的に抱き締めている図を見ながら?


「ああ、この男は被り物みたいなものだから」


 全く照れた様子もなく、いつも通りの真央先輩。


 しかし、「被り物」って表現はどうなのか?

 せめて、二人羽織ではないだろうか?


「ああ、どうせなら、背中から腕を回して。それでもいけるでしょ? こんな風に包まれていると、トルクの腕が邪魔で、高田の魔法が見にくいから」

「分かった」


 いやいやいや!

 分からない! 分かりません!!


 どう見たってイチャイチャする男女の図。


 真央先輩の表情を見る限り、そんな感情が一切ないことが分かる。

 でも、わたしなら、無理だ。


 トルクスタン王子のように見目の良い殿方に抱き着かれたり、後ろから肩に両腕を回されたりすれば、絶対に赤面する。


 ……と言うか、これを見せつけられているだけでも十分、恥ずかしい!


「シオリがなんか、面白い」

「まあ、分かりやすいよね」


 なんなの!?

 知らなかっただけで、実は、2人はラブラブファイアーだったの!?


 なんでこの状態で落ち着いていられるの!?


 いや、待て?

 真央先輩は、トルクスタン王子の兄の婚約者だったはず。


 あれ?


「高田~、そろそろ正気に返ろうか」


 真央先輩の言葉で、わたしはふと動きを止めた。


「シオリは我を失っていたのか?」

「いや、どちらかと言えば、思考が暴走気味になっていた」


 真央先輩が笑う。


「言っとくけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからね?」

「へ?」


 さらに続く言葉に思考が停止する。


「ツクモとシオリ? 俺たちなんかより、もっと仲良いだろ? 互いの体内魔気が移り合って混じり合うほどだぞ? あれで、ヤってないってのが不思議なぐらいだ」


 ほあああああああああっ!?

 いろいろ何、言ってんだ!? この王子殿下は!!


 ヤったとかヤらないとかそんな問題ではない!!


 それに、体内魔気が移り合うはともかく、混じり合うってどういうことですか!?


「トルクの言葉には品がないね」

「ミオほどじゃない」

「あの妹と比較したら駄目だってことに気付いてよ」


 その言い方もどうだろう?


「そんなわけだから、高田は気にせずに続き、続き」


 そう真央先輩に促されて、わたしは続きをすることになった。


「何をお見せすれば……?」

「まずは、トルクに種火を見せて」


 種火と言うのはあれだろう。


 わたしの手の上で揺れる小さな火。


『燃えろ』


 だから、わたしは手のひらに小さな火を浮かべた。


「おい、マオ?」


 トルクスタン王子は不機嫌さを隠さない。


「トルクは少し黙って」


 自分の背後にいるトルクスタン王子に向かって、真央先輩はそう言った。


「その火を指先には出来る?」

「多分……」


 いや、そのイメージは分かりやすい。


 魔法もののイラストでよく見かける構図だし、自分も結構、描きなれている。


『燃えろ』


 そう言うと、指先に火が灯った。


 うん。

 イメージ通り。


 欲を言えば、この図を紙に描き記したい。

 自分視点ではこう見えるのか。


「じゃあ、次はもっと大きくできる?」

「はい」


 大きく、さっきから小さな火だから、バスケットボールぐらい?


 そう言えば、ライトが昔、わたしに向けてそんな火をいくつも放ってくれたな。


『燃えろ』


 右の手のひらから射出されたバスケットボールぐらいの大きさの火の玉。


 それは暫くわたしの手の上で浮いていたが、風船が萎むように消えてしまった。


「もっと大き目は無理?」


 少し考えて……。


「火ならどんなのでも良いですか?」

「うん、勿論」


 わたしの言葉に真央先輩は笑顔で頷く。


 わたしが考える最大の火。

 それは、ゲームの中ではない。


 それを見せてくれた人がいる。


()()()()()()()()

「鳥?」


 わたしの呟きが聞こえていたのか、真央先輩がその言葉に反応する。


『羽ばたけ、()()!』


 炎の鳥と言えば、朱雀、鳳凰、不死鳥だが……、なんとなく「朱雀」を選んだ。


 昔、漫画で見た「朱雀」と呼ばれた神獣は、空を覆うほどだった。

 そして、ゲームではしつこいぐらいに追いかけてくるイメージ。


 でも、わたしが知っている炎の鳥は、水尾先輩が出した大鳥だった。


 「朱雀」と口にしたのは「大鳥」だと、なんとなくダチョウのような生物が出てくる気がしたのだ。


 そして、現れたのは、炎をその身に纏う、巨大な鳥。

 その燃え盛る羽を広げたその状態は、10メートルぐらいある気がする。


 なんとなく、「クケーッ! 」って()()()()


『クケーッ!!』


 あ、叫んだ。


 でも、思ったより声が低い。

 もっと甲高いイメージだった。


 その炎に包まれた大きな鳥は、そんな叫び声を上げた後、空高く舞い上がり、小さな粒になった後、上空を二回ほど旋回して、どこかへ行ってしまった。


「あれ、野に放って大丈夫なのか? 何より、この上空にも結界があると思うのだが、それをどうしたんだ?」


 トルクスタン王子が呆然とそう言うが……。


「大丈夫だと思うよ。あの大鳥は、精霊の召喚でも神獣の召喚でもなく、純粋に高田の魔力だけっぽいから、注ぎ込んだ魔法力と、高田の意識次第ではすぐに消えるよ」

「いや、()いたぞ?」

「鳴いたね」

「つまり、魔法じゃなくて、生物だろう?」

「あれだけ高田の魔力の気配しかないものを生物と認めるのは難しいな。意思もなさそうだったしね」


 真央先輩が困ったようにそう言ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ