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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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張子の虎

『燃えろ』


 小さな火種がわたしの手の中に生まれる。


「火魔法だな」

「うん、火魔法だね」


 水尾先輩と真央先輩が覗き込みながら言った。


 わたしはまたもぶっ倒れたらしい。

 幻影の九十九を自分で消しておいて、何故かショックを受けたらしい。


 その時の記憶はあまり思い出せないけど、なんとなく九十九がいたような気配があった。


 でも、わたしが気付いた時には()()()()姿()()()()()()


「氷は?」

「えっと……」


 氷、氷なら……。


『凍れ』


 小さな丸い氷が手のひらでころんと転がった。

 冷たい。


「氷魔法だな」

「氷魔法だね」


 水尾先輩がわたしの手から氷を手に取って確認する。


「水魔法」

「水?」


 水って何を願えば良いのだろう?


 流れる?

 いや……。


『溜まれ』


 わたしの手の中に、水が溜まった。


「溜まれ……って」

「そこは『流れろ』じゃないんだ」


 水尾先輩が呆れ、真央先輩が苦笑した。


「流すと、この手に収まり切れないので」


 水を掬い上げたイメージにした。


「ほほう? つまり手のひらサイズ以上もできるってことか?」

「多分」


 その点については、イメージ次第だとは思う。


「高田は、最大で、どれくらいの魔法ができそうだ?」

「最大で……?」


 水尾先輩の言葉でいろいろと考えてみる。


 恐らくは威力よりも大きさの話。

 わたしが考えられる最大の大きさは、画面いっぱいに広がる系の魔法だ。


 しかし、それに伴うイメージの言葉と言えば……。


『光れ』


 眩しい閃光が周囲を貫く。


「範囲としては確かに最大でもおかしくないが、そうじゃない」

「確かに光は拡散するからね」


 今度は2人して呆れたように言う。


「それなら……」


 わたしは片手を上げて……。


()()()()()


 そう言うと……。


 ―――― ドゴオォンッ!!


 地が響くような、耳の鼓膜が破れてしまうような轟音がして、空に広がったものがある。


 花火だ。

 視界を覆いつくすかのように、上空にその大輪を咲かせ、舞い散るように火の粉を瞬かせる。


 これが、わたしのイメージできる大きさ的には最大級だと思う。


 花火が消えた後にも、パラパラと火の粉が降ってくるが、それらが下に落ちる前には消えていた。


 本物の花火ならこうはいかないのだろうけど。

 打ち上げの真下とか危険すぎるよね?


「た~まや~? だっけ? あれ? かぎや?」


 その花火を見ながら、真央先輩が妙に嬉しそうに笑いながら言い……。


「いや、高田。大きいってそういう意味じゃなくてな?」


 水尾先輩はどこか呆れたようにそう言った。


「打ち上げ花火の再現って結構凄いと思うよ。私は好きだけど」

「好き嫌いの問題でもない。魔法力の無駄だ」

「え~? でも、私は魔界で打ち上げ花火に似た何かを見ることができるなんて思ってもみなかったよ?」


 双子の意見は再び割れる。


 水尾先輩は普通の魔法を見たかったのだろう。

 激しい威力、分かりやすい形状の魔法としてあるべき姿。


 だが、わたしはそれ以外ができるかを試したかったというのが強かったのだ。


 いや、水尾先輩が求めていることが分かった上で、それを選ぶと言うのも性格が悪いとは思ったけれど……。


 でも、真央先輩の言った通り、魔界でも打ち上げ花火を見ることができるって、それはちょっとした奇跡だとも思ったのだ。


 もう、何年も見ていないものだから。


 それに、空に向かって吸い込まれるように打ち上がり、花開き、パッと散っていくその様は、まるで、この「ゆめの郷」にいる「ゆめ」や「ゆな」のように思える。


 ここで働く彼女たちや、彼らのほとんどは、自ら望んでこの苦界に身を堕としたわけではないのだろう。


 それぞれの事情があり、苦渋の果てに選んだ道に、少しでも安らぎがあれば、と願うしかない。


 九十九の元彼女さん、ミオリさんも、選んだ手段とかは良くなかったみたいだし、彼女なりに罰を受けるのだろう。


 あの人に対しては、わたしも良い思いはない。

 酷いことを言われたし、不快な思いもさせられたから当然だろう。


 わたしは「良い子」ではないし、全ての罪を許せるような「聖女」でもないのだ。


 だけど、あの人が、少しでも良い方向へ進んでくれたらと願うくらいは良いよね?


「さてと……」


 わたしは気合を入れ直す。


 思ったより、わたしのイメージは再現しやすいらしい。


 先ほどの、打ち上げ花火は、イメージ通りの大輪の花を咲かせてくれた。

 色合いも昔見た花火とそこまで遜色もない。


 多少の記憶違いはあったかもだけど……。


 それならば、過去に見た魔法の再現も、言葉を間違えなければ可能なはず。


「テンペスト!」


 わたしの言葉と共に、巻き起こり、この視界の許す限り激しく入り乱れる暴風。


 風属性の魔法に耐性が高いはずの九十九とわたしを同時に吹き飛ばしてしまうほどの暴力的な嵐の魔法。


 それと同時にごっそりと自分の中から、何かが抜け出る感覚。

 これまでの魔法と違って、魔法力の消費量が明らかに多い。


 こんな魔法を使っても、あの王様は涼しい顔をしていたのか。

 改めて、あの人の恐ろしさを知った気がする。


 だけど……、何かが違う。


 あの時、自分や九十九を巻き込んだ風はこんなものではなかった。


 もっとずっと……。


暴風魔法(tempest)……?」


 目の前の轟音を見ながら、水尾先輩が呟いた。


「でも、なんかちょっと違うような?」


 水尾先輩に護られながら、真央先輩が言った。


「何か、違いますか?」


 荒れ狂う風を少しずつ弱めながらも、真央先輩の言葉が気になった。


「うん。確かに見た目は確かに『暴風魔法(tempest)』なのだけど、その性質はどこか『風魔法(wind)』っぽいなと。いや、これも普通に見れば、結構な威力だとは思うのだけどね」

「見た目『テンペスト』、中身が『うぃんど』ってことですね」

「若干、発音が気になるけどそんな感じ。でも、これはこれでかなり不思議」


 何故か、嬉しそうに言う真央先輩。

 そのキラキラした瞳は、魔法を見て語る水尾先輩と重なって、やはり双子なのだと思う。


「多分、だけど、高田は『暴風魔法(tempest)』を契約してないんじゃないかな」


 水尾先輩が口に手を当てながら、そんなことを言った。


「だから、見た目と威力が違う……って? なかなか面白い考え方だね、ミオ」

「そんな時は、普通、魔法としても現れないはずだが……、高田だからな」

「ああ、なるほど。高田だからね」


 なんだろう? これは褒められている気がしない。


 でも、妙に先輩たちは嬉しそうだった。


 魔法は想像だけじゃ駄目だったみたいだ。

 見た目は凄いけど、その中身がスカスカなら、ただの「張子の虎」でしかないよね?


 あれ?

 でも、九十九に対しては結構、有効だった気がする。


 魔法耐性がそれなりにある彼を吹っ飛ばしもしたし、しっかりと眠らせることもできたわけだから。


「でも、気になったのだけど」


 一頻り水尾先輩と語りあった後、真央先輩がわたしの方へ向き直る。


「なんで、今回は呪文詠唱をしたの?」


 そう問いかけられたので……。


「わたしがこの魔法を見た時に、その人が呪文詠唱をしたので、なんとなく……でしょうか?」


 深く考えなかった。


 ただあの人のように言えば、同じような魔法を使えるとそう思っただけだった。


 まあ、その結果、中身が伴わないという部分も、わたしらしい。


「『暴風魔法(tempest)』を契約してるって、九十九か? 先輩か?」

「へ?」


 水尾先輩の台詞に、わたしは間抜けな疑問符で返す。


「『暴風魔法(tempest)』はね。風魔法でも高位魔法なんだよ。一般的には魔力も魔法力も足りないんだ」

「えっと、父親……、でした」

「娘になんて魔法を使ってんだ! セン……、高田の父親は!!」


 恐らく「セントポーリア国王陛下」と言いかけたのだろう。


 でも、ここは、結界があるとはいえ、誰が聞いているか分からない可能性もある。

 水尾先輩の判断は正しい。


「高田に昏倒魔法を使うミオが言ったらいけないと思うけど」


 真央先輩が呆れたように言う。


「い、いや、九十九も一緒に食らいましたし」

「護衛ごと吹き飛ばされるってあの方に何したんだ、高田!?」


 わたしの言葉はフォローにならなかったらしい。


「魔法勝負……、でしょうか?」

「「は? 」」


 わたしがあの方の「暴風魔法(tempest)」を見たのは、ストレリチアにある大聖堂地下の契約の間だった。


 それ以降も、セントポーリア城下の地下にある契約の間で、何度か国王陛下の魔法を一方的に食らいはしたけど、「暴風魔法(tempest)」のような大魔法は見ていない。


「なんて羨ましい!!」


 ……ですよね。

 水尾先輩なら、そう言うと思っていました。


「でも、なんで、そんなことになってたんだ!?」

「……ってことは、中心国の会合の時?」

「はい」


 水尾先輩の質問には答えにくかったので、真央先輩にだけ答えた。


 あの会合を見ている最中に情報国家の国王陛下に攫われ、父親に引き合わされ、何故か、次の日に九十九とともに魔法勝負をすることになったなんて、どう説明すれば良いのか?


「詳しいことは、九十九に聞いてください」


 仕方ないので、わたしは護衛に丸投げをした。


 彼は護衛だ。

 そして、わたしの心と身体を護ってくれると誓ってくれた。


 だから、後は頼んだ!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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