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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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明らかに変わった態度

「随分、戻りに時間がかかったな」


 そう言ったのは、水尾先輩だった。


「申し訳ありません。わたしが九十九に我が儘を言ったばかりに……」


 (もと)をただせば、ここに戻らなかった原因はわたしにあるのだ。


 この場所が苦手だから帰りたくないなんて、わざわざこの高級宿泊施設を紹介してくれたトルクスタン王子にも悪いと言うのに……。


「それは良い。高田の気持ちもよく分かる。だけど……」


 水尾先輩はぎゅっとわたしを抱き締めて……。


「いきなり飛び出さず、何か一言で良いから、言ってくれ」


 そんなことを言ってくれた。


「ごめんなさい」


 それ以外の言葉が言えるはずもない。


 わたしは、自分がどれだけ心配かけたのかを知る。


「それはそうと、高田は大丈夫だった?」

「何が、でしょうか?」


 真央先輩の質問の意味が分からず、問い返す。


「聞いた限り、いろいろあったでしょう?」


 その「いろいろ」が何を指すのか分からないけれど……。


「もう大丈夫ですよ」


 そう答えた。


 気にかかるものはあるけれど、わたしの中に心配しなければならないものはない。


「わたしには、頼りになる護衛がいてくれますから」


 そう言って、この場にいない黒髪の青年のことを口にした。


 ところが、何故か、水尾先輩と真央先輩が目を丸くする。


「た、高田。その、九十九と何かあった?」

「へ?」


 何か……?

 水尾先輩からそう言われて、宣誓の話かな? と思い至る。


「ちゃんと主人と認められたことぐらいでしょうか?」


 誤解を招きそうな台詞ではあったが、あの誓いはそう言う話、だよね?


「今までだって認められていただろ?」


 水尾先輩が不思議そうにそう言う。


「違いますよ。九十九が従っていたのは、雇い主や雄也先輩であって、わたしじゃなかったです」


 あるいは、わたしの中に眠り続ける幼馴染か?

 そのことは彼自身もずっと言っていたようなものだったし。


 だけど、あの誓いを受けてから、明らかにわたしに対する九十九の態度が変わったのだ。


 彼から、誰よりも何よりも大事にされていると錯覚しそうになるほどに。


 でも、変わりすぎて心臓に悪い。

 わたしに掛ける声も、向けられる目も、触れる手も、前よりずっと優しくて、甘いのだ。


 「主人」に対して、これほどなのだから、彼に愛される人は、ある意味気の毒になってしまう。


 多分、重い。

 すっごく、重い。


「そうなのか?」


 だけど、わたしの言葉に水尾先輩はさらに不思議そうな顔をする。


「まあ、主人と言っても、わたしに彼らのお給金は払えないので、雇い主が替わったわけでもないのですが」


 単に気持ちの問題なのだろう。


「まあ、ヤツら、かなり稼いでるっぽいからな」

「稼いでるし、恐らく、かなり貯め込んでるよね」


 やはり、傍目にもそう見えるらしい。


 まあ、そうじゃなければ、この高級宿に連泊って無理だよね。


「その九十九から、チラリと耳にしたんだが、高田、魔法を使えるようになったって?」


 九十九はいつの間にか水尾先輩にも伝えていたようだ。


「あれを魔法と言って良いのか疑問ですが……」


 九十九は魔法だと言っていたが、魔法国家の王女たちにはどう映るのだろうか?


「それなら、行こうか」


 そう言って腕を引かれる。


「ど、どこに?」

「九十九が言っていた広場に。その頃には、ヤツらの用も済んでいるだろう」

「そうだね。私もちょっと興味がある」


 水尾先輩の言葉に真央先輩も賛同した。


「場所は聞いてたけど、私はまだ行ったことがないから、案内を高田に頼む」

「あ、はい」


 水尾先輩の移動魔法は、一度行った場所にしかいけない系統らしい。


 座標で移動もできなくはないけど、頭の中で位置計算しなければいけないのでかなり面倒だそうな。


 わたしは、どんな移動魔法を使えるのだろう?


 そんなわけで、広場にやってきた。

 相変わらず、何もない。


 あれから、来島やミオリさんはどうなったのだろうか?

 2人に最後に会ったのがここだから、どうしても考え込んでしまう。


「ここは……」

「結界も凄いけど、それ以上に見事なまでの空白地帯だね」

「空白地帯?」


 真央先輩の言葉にわたしが反応する。


「普通、このスカルウォーク大陸は『空属性』の大気魔気が入り乱れているのだけど、ここ、特定の大気魔気を感じないんだよ」

「いろいろ混ざっているってことですか?」

「逆。ほとんどない」


 言われてみれば、来島と九十九が睨み合っていた時は、九十九の気配しか感じなかったし、ミオリさんと来た時も、彼女の気配しか分からなかった。


「つまり、魔法を使っても大気魔気に左右されないってことか……」

「完全に自分の体内魔気を使うってことになるね」


 ……と言うことは、九十九はあの時、自分の魔力だけで、上空に雷雲を発生させたってこと?


 いや、雲はなかった。

 つまり、完全に光エネルギーだけだったってことか。


 どちらにしても、彼の魔力ってすごく上がってない?


「個人の結界でこんなことができるとも思えない。この不自然な感覚がする結界は、アリッサムの防護結界よりは確実に上だよ」

「アリッサムより?」


 真央先輩の言葉に、水尾先輩が驚いている。


 よく分からないけれど、九十九が、いや、ソウが教えてくれた場所はとんでもない場所だったらしい。


「うん。でも、大気魔気の完全排除って結界、普通は意味ないけどね」


 確かに魔法が体内魔気と大気魔気を利用するものが多いなら、大気魔気が完全になくなるのは意味がない気がする。


 でも、それは、魔法を使う側の話であって、逆に、魔法を使えない側からすれば、この上ない護りになるのではないだろうか?


「自然結界か?」

「ん~? どうだろう? 私に結界の起点が読めないのは確かだね」

「マオでも、起点が読めない……、だと?」


 自然結界は、この世界が作り出した物。

 ある意味、神の遺物とも言われている。


 セントポーリア城下の森とか、リヒトと会った迷いの森とかがそんな結界だった。


 それに対して、城などを含めた建物を護っている結界のほとんどは、人為的な結界。人口結界だ。


 それが、魔法か、法力かの違いぐらいで、ほとんどは昔の術者が創り上げた後、それを後世の人間たちが維持している。


「カルセオラリア製の物みたいな気配もあるから、機械国家が何かした可能性もあるかな」


 そう言いながら、真央先輩は広場の向こうを見ていた。


「よし、じゃあ見せてくれ」


 水尾先輩がわたしに向き直る。


「的はどうしましょうか?」

「そっか、いつもなら九十九がいるけど、今日は的がいないのか」

「何気に酷い会話だね」


 真央先輩が呆れたように言う。


「幻影でも出すか」


 そう言って、水尾先輩は、空間に九十九を創り出した。


 だけど、よく見ると細部は違うし、その気配も全然違う。


 なんか、存在が希薄と言うか?

 触れたら消えてしまいそうだった。向こう側が透けているせいかもしれない。


「いや、幻影はともかく、なんで、九十九くんで作るの?」

「高田が慣れている的の方が良いかと思って……」

「その発言が可笑しいことに気付いて、ミオ」

「じゃあ、トルク?」

「現実の人型に拘らなくても良いよね?」

「それなら、ソフトボール?」

「なんで、貴女はいつもその辺り、大雑把なの!?」


 何やら、姉妹喧嘩が始まってしまいました。


 わたしは、幻影の九十九と取り残される。


 でも、落ち着かない。

 この横にいる九十九が本物ではないことが分かっているからだろう。


 だから、なんとなく……。


「ごめん、悪いけど『消えて』」


 そう口にした。


 幻影とは言え、九十九の姿をしたものに、そんなことを言いたくはなかった。

 でも、幻影なら風で少し空気を動かせば、煙のように消えるだろう。


 だが……。


「あ、あれ……?」


 幻影は確かに消えたのだ。


 だけど、その消え方がなんか、思っていたのとは全然、違った。


 まるで、九十九の身体に空気を大量に送り込んで、内側から破裂させたみたいに幻影は飛び散って消えたのだ。


 なんと言うか……。

 一言で言えば、グロい。


 本物じゃなかった分、血やそれ以外の中身が飛び散ったりしてないので、少しはマシだったけど……。


 だけど、その光景に何かが重なった。

 似たようなものをどこかで見たような気がして、頭痛がする。


 それは、黒くて、赤くて、紅いモノ。

 自分に向かってくる黒いナニかが、紅い瞳を向けながら、赤い何かを滴らせて……?


「栞!!」


 頭痛の中、聞き覚えのある声がした。


 そして、周囲に居心地の良い風が巻き起こる。

 普段は穏やかだけど、時々、激しく力強い風。


「つく……も……?」


 わたしは、その眩しい光に満ちた風の名を呟いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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