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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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【第57章― 自分の手に余るもの ―】経験を伴えば……

祝・1000話!


そして、この話から57章です。

ひたすら阿呆な会話が続く章です。


そして、いろいろ大変な、青少年の葛藤をお楽しみください。

 期待すること自体、間違っている。


 確かに自分の気持ちに自覚は出たが、彼女をそう言った対象で見てはいけないことに変わりはないのだ。


 それでも、雄の本能と言うか……、

 どうしても、彼女の一言、一言に過剰なまでに反応してしまうことは避けられない。


 いや、言葉だけじゃない。

 一つ一つの仕草や表情に気が付くと目を奪われているのだ。


 このままでは、当人に露見することは避けらない。


 いっそのこと開き直ることができれば、楽になれるかもしれないが、それで楽になれるのは恐らく、自分だけだ。


 文字通りの意味で。


 だが、彼女は困るだろう。


 近くから水音が聞こえる。

 それだけでも、余計な妄想が掻き立てられてしまう気がした。


 この建物には防音や遮音の効果がないようだ。

 寧ろ、無駄に音が響いている気がする。


 まさか、風呂から聞こえる音を強調する効果があるのか?


 お湯を流すような音だけではなく、それ以外の音、下手すれば漏れる息の音すら耳に届いている気がするのだ。


 しかも、厄介なことに経験を伴えば、より明確に想像力は働く。


 これまでは、そこまではっきりとしなかった身体の輪郭とか。

 オレはもう、彼女の服の下に守られている肢体を、ある程度までは見てしまっているのだ。


 しかもタチが悪いのは、目を閉じてもくっきりと思い出せるように瞼の裏に焼き付いてしまっている。


 だから、正直、いろいろ大変だった。


 なるほど、だから、彼女はモデルを欲するのか。

 想像だけでは補いきれない現実(リアル)を紙に表したくて。


 今、それを理解できても全く嬉しくないけどな!


 それにしても、誓いを逆手にとられた気がした。

 本来は、自己満足にすぎない(オレ)の望みを口にしただけだ。


 だが、それを彼女は主人として、真面目に重く受け止めた。


『心も身体も、魂すら捧げる』


 それは、この上なく重い「愛の誓い」にも取れるが、直接、彼女自身に「愛」を告げていないため、どこまでも篤い忠義を示す「従者の誓い」にも受け止められる。


 いや、その気持ちに嘘偽りなどない。


 現時点で、彼女以外の女に同じくらいの興味、関心を持てる気はしないし、「発情期」の心配もなくなった今となっては、そこまで異性(おんな)を抱きたいとも思えなくなっている。


 彼女でなければ、誰でも同じようなものだ。


 純粋に男としての欲がなくなったわけではないが、それでも、一度知った甘露な美酒を別の半端な安酒の味に上書きしたくもない。


 そう言った意味でも、深織との行為の全容を全く覚えていなかったことはオレにとって良かったのだろう。


「ん?」


 それで、思い出した。


 あまりにも、彼女の態度が普通過ぎて忘れかかっていたが、真央さんが気になることを言っていた気がする。


『「ゆめ」には、「発情期」の心配がある初心者くんが、ちゃんと経験したかを雇い主に報告することがあるらしいんだよ』


 だから、彼女は雇い主として、オレと関係した深織(ゆめ)から聞かされている可能性がある、とも。


 栞の部屋に深織の気配があったことからも、それを裏付けている気がする。


 だが、それを、どうやって当人に確認する?

 そして、それが本当だとしたら深織はどの程度、話した?


 あの時、深織が栞そっくりに姿を変えたことは覚えている。

 そして、その姿で「命令」されたことも。


 そして、無意識になり、そのまま、深織(かのじょ)の「命令」に従ったことだけは、残された状況からもよく分かった。


 だが、その内容については本当に、全く覚えていなのだ。


 知識がないわけではないのだから、そこまでおかしなことはしていないと思いたいが、それを確かめる(すべ)はない。


 強いて言えば、()()()()か。


 本当にあの時に視たあの場面の通りならば、相手は「ゆめ」なのだから、そこまで問題はないだろう。


 オレの視た夢の中では、最後の瞬間まで自分の姿ではなく、主人(あるじ)の姿のまま、貫き通していた。


 だから、無意識のまま、最後までその名を呼び続けていたことは何も文句を言われることはないだろう。


 元彼女を抱きながら、今の想い人の名を呼ぶとか、あらゆる意味で男としては問題しかないのだが。


「上がったよ~」


 そんな呑気な声で現実に引き戻される。


 振り向くと、洗い髪をタオルで拭き、頬をほんのりと紅潮させた栞がそこにいた。


 ―――― やべぇ……


 めちゃくちゃ可愛い。

 そう言い切れる。


 なんだ?

 この生き物。


 肩までの黒髪から垂れてくる雫を懸命にタオルで乾かそうとする姿は、小動物のようで癒される。


 いや、可愛いだけでなく、そこはかとない色気まであった。


 白い肌が、温まって少し色付いている状態は、はっきり言ってかなりエロい。

 さらに頬や額を伝う雫とか、見ているだけで生唾が出てくる。


 おいおい?

 これは何の補正だ?


 自分の気持ちを自覚したってだけで、こんな心境になるものなのか?


 オレ、今まで、どうやって接していた?

 なんで、こんなにあちこちが美味そうに見えるんだ?


 しかも、服!

 首までのタートルネックだったが、そこは問題じゃない。


 いつもは色気がないと思っていた身体の線を隠すような服も、その下を知ってしまった今となれば、逆に扇情的な気がする。


 重症だ!


「どうしたの?」

「雫……」

「へ? ああ、ドライヤー、乾燥石の場所が分からなくて」


 少し照れくさそうに言う姿すら、思わず抱きしめたくなるものだったが、理性を総動員させて自分を落ち着かせる。


「乾かしてやるから座れ」

「ありがと~」


 邪なオレの心境に反して、無防備すぎる返事である。


 こいつ、オレが今、どれだけいろんなものと戦ってるか、絶対、分かってねえよな?

 今、着ているのがタートルネックの服で良かった。


 これで、白い(うなじ)が見えた日には、いろいろとヤバい!!


 ……と言うか、この状況はなんだ?

 風呂上がりに同じ部屋で過ごすって、いくら護衛でもコレってありなのか?


 それだけ信用されていると言えば、聞こえは良いが、「異性(おとこ)」扱いされていないのはかなり腹立たしい。


 確かにそうなるように仕向けてきたが、だからと言って、互いの性別が変わることはないのだ。


 ある程度の警戒心を持って然るべきではないのか?


 それに、ここにいるのがオレじゃなくて、兄貴でも来島でも、同じように無防備な姿を晒すんじゃねえのか?


 そう思うと、鬱屈した気持ちが身体の奥底から沸き上がってくる。

 だが、その考えもそこまでだった。


「ベッド、どうしようか?」


 栞が困ったようにオレにそう言った。

 それも、一瞬、心を読まれたかと思うような言葉。


 だが、思い直す。

 この建物には寝台が一つしかない以上、彼女の疑問は当然のものだ。


「お前が使え。オレはこっちの部屋にある長椅子を使う」


 部屋の壁に引っ付いて無駄に存在感がある長椅子だった。

 大きさ的にソファーベッドに見えなくもない。


 何に使うか、深く考えてはいけないだろう。


「いや、身体の大きさを考えれば、逆でしょう?」


 確かに小柄な彼女ならこの長椅子でも眠れるだろう。


 だが、男としても、従者としてもそれは許せない。


「お前がベッドを使うのが当然だろ?」

「でも、護衛が万全の態勢じゃないと困るよ? 睡眠、大事」


 言ってることは分かるが、こればかりは退()くわけにはいかない。


 先ほどのような風呂の順番とはわけが違うのだ。


「主人の安眠も大事だ。オレにちゃんと仕事させろ」

「うぬぅ」


 毎度ながら、話は平行線のようだ。

 互いに退()く気はない。


 だが、そうなると主人である栞の方に分がある勝負だ。


 一言、オレに「命令」するだけで良い。

 それだけでオレは拒否することなく彼女に絶対服従してしまう。


 それでも、彼女はそれを選ばないのだ。


「仕方ないな~」


 そう言って、栞はベッドの方へ向かったくれた。


 そのことに少し、ホッとする。

 だが、甘かった。


「九十九……、こっちに来てくれる?」


 彼女はそんな、とんでもないことを言いやがったのだ。

そして、驚きの1000話です。

とうとう、桁が変わってしまいました。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告をくださった方々と、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげだと思っています。


本当にありがとうございます。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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