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生徒会長目線です
カツカツカツ……と音を立てながら長い廊下を歩き、彼は重厚な扉の前で足を止める。
徐にノブを握ると、ノックもせずにサッと扉を開けて中へと入って行った。
ガチャンという音に反応したのか、ソファーにだらしなくゴロンと横になったまま扉の方へと顔を向けた男が、
「お帰り~……と、その顔は失敗したみたいだね」
すこぶるどうでも良さそうに言った。
彼は生徒会副会長のオズワルド・ライズ。
燃えるような赤い髪に妙に目力のある紫の瞳は、一見彼を情熱家のように見せているが、今のダランとした様子に現れている通りの残念なモノグサな男である。
仕事は出来る男なのだが、極度の面倒くさがりであまり人前に出ることはせず、大抵はここ、生徒会室のこのソファーに寝転がっている。
「ルド、うるさい」
先ほどまでの優しげな雰囲気は何処へ行ったのかと思うほどに、今の生徒会長はピリピリとした空気を纏っている。
それにも動じることなく、オズワルドは心底どうでもいいというように、テーブルの上のお菓子へと手を伸ばした。
「嫌だなぁ、僕に当たらないでくれる? 失敗したのは自分のせいでしょ? それに僕、やめときなって言ったよね?」
ジークヴァルトは悔しそうにオズワルドを睨むと、自分の定位置である生徒会長の机に向かった。
他の生徒会役員の椅子より豪華な肘掛け付の椅子にドカッと座ると、奥から菫色の長い髪を後ろで一つに結ぶ狐目のヒョロヒョロな長身男が会長の机に淹れたばかりの紅茶を置く。
彼は生徒会会計のゲイル・スウェイジ。
「残念でしたね。アビゲイル嬢に来て頂けたら、男ばかりのむさ苦しいここも、華やかになるかと思ったんですがねぇ」
言うほど大して残念そうではなさそうだ。
「それにしても、『私が勧誘すれば来るだろう』なんて、自信たっぷりに誘いに行ったのにね、格好わるっ」
「ルド、そんな風に言うものではありませんよ。アビゲイル嬢はノア王太子殿下や騎士科のイザヤ殿にも靡かなかった女性だそうですからねぇ。初めから無理だと分かってはいましたが、容姿以外にこれといった取り柄のないジークが無駄に頑張ったんですから……」
「ゲイル、……俺そこまで言ってない」
「おや、そうでしたか?」
ジークヴァルトは自席でプルプルと震えている。
彼は伯爵家の次男坊で成績は常にベストテン入りし、そこそこ運動神経も良く何より見た目が宜しいので、跡継ぎのいない令嬢から婿養子に来て欲しい男性一位と言われている。
そして超の付くナルシストであった。
それを知るのは、ここにいる生徒会のメンバーだけである。




