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ゲーム本来のシナリオでは婚約破棄は一年後のことで、生徒会のメンバーにはヒロインだったシャルロットがいたはずだった。
彼女はライアン元王子殿下と既に学園を去っており、その空席を埋めるための勧誘が私とか、もう本当にやめてほしい。
ゲームは終わって、やっと悪役令嬢ポストから解放されたとホッとした途端にこれである。
今後も攻略キャラたちとは極力関わり合いたくないというのが本音だったりするのだ。
「力不足などと言われるほど大変な仕事ではありませんので……」
少し困ったように眉尻を下げながら、尚も勧誘してくる生徒会長。
大変な仕事じゃないなら、私でなくてもいいのでは? 喉まで出掛けた言葉を飲み込み、
「申し訳ございませんが、私、色々と環境も変わって時間も気持ちも余裕がございませんの」
言外に『察しろよ!』と念を込めて、けれども周りにいるクラスメートたちには申し訳なさそうに見えるように伏し目がちにお断りの言葉を口にする。
キッパリ面倒くさいから嫌だと言ってやりたいけれど、この生徒会長も攻略キャラだけあって学園内での人気は高いのだ。
へたな断り方をすれば、とっても面倒くさいことになるのは目に見えている。
婚約破棄騒動は皆が知っていることで、アビゲイルにアピールを続けていたノア殿下のことや、一時アビゲイルの後をピッタリと張り付くようについてまわっていたイザヤ先輩のことなど、色々聞きたそうな顔をしているクラスメートたちであるが、今のところアビゲイルを敵認定している者はいないようである。
それに少しだけホッとしながらも、生徒会長がここで更に勧誘の言葉を口にするほど無神経ではないことを心の中で祈る。
生徒会長はフゥと小さく息を吐いて、
「そうですね、私の配慮が足りなかったようだ。申し訳ない。もう少し時間を開けてからまた来るとしましょう」
と、不吉な言葉を残して行ったのだ。
直接的な勧誘の言葉ではないけれど、あれは勧誘予告の言葉だよね?
どうやら心の中でのお祈りは天に通じなかったようだ。
もう来なくていいんだけど? 寧ろ来ないで下さい。お願いします。
脳内で二度と来ないでくれと土下座をしながら、呆然と彼の去って行った方向(ドアの方)を見つめていれば。
「アビゲイル様? また変な虫につかれましたね」
残念そうな瞳を私に向けるマリー様。
え? 私のせいなの?
「また来ますわね」
「ええ、きっと来ますわね」
ミランダ様とミレーヌ様まで、残念そうにそう呟く。
いやいやいや、私のせいじゃないよね?
生徒会長とは関わらないようにしてきたので、直接顔を合わせるのは今日が初めてのはず。
それに私、ちゃんとお断りしたよね?
攻略キャラって、なんでこうもしつこいの?
お願いだから、素直に引いて二度と来ないで下さい!




