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前半アビゲイル、後半マリー目線です
「やあ、アビー。機嫌が良さそうだけど、何か良いことでもあったのかな?」
いつの間にかニコニコ顔のノア様が立っていた。
ノア様も、とっても機嫌が良さそうな様子。
「ノア様、ごきげんよう」
「ああ、ごきげんよう。アビー、早速だけど私と結婚して欲しい」
いつものように『おはよう』『こんにちは』の挨拶のように、サラリと結婚の申し込みをされるノア様。
軽い感じに聞こえるが、それはアビゲイルに負担を掛けないためであり、彼は本気である。
そのことにアビゲイルも当然気付いていた。
そしていつもと違うのは、アビゲイルは今現在婚約者がいない状態だということ。
今までは「婚約者がおりますので、申し訳ございません」とお断りさせて頂いていたのだが、もうその断り文句は使えない。
アビゲイルは真っ直ぐにノア殿下の目を見て、
「ノア様、こんな私を好いて頂き、ありがとうございます。婚約者がいなくなりました今、私の言葉でキチンとお返事をさせて頂きたいと思います。……私、昔から想う方がおりました。婚約者がいる身でしたから諦めておりましたが、無事婚約が白紙となり、先日わたくしから告白致しまして、お付き合いさせて頂くことになりました。ですから、ノア様の求婚を受け入れることは出来ません。もっと早くにお伝えするべきでしたのに、大変申し訳ございません」
と、深く深く、頭を下げた。
まあ、婚約者がいるのにその婚約者でない好きな人がいるなどとは、口が避けても言えることではないけれど。
ノア殿下はまさかアビゲイルに想い人がいるなどとは思ってもみなかったようで、ショックを隠せていない。
「アビーに、想う人が、いる……?」
口に手を当てて、いや、でも……と何やらブツブツと呟いている。
「まだ婚約はしていないのなら、私にもチャンスがあるのではないか?」
力なくそう言ったノア殿下に、マリー様が口を開く。
「ノア様、少し宜しいですか?」
「え? ああ、構わないが……」
「では、ちょっとあちらの方に」
マリー様が戸惑っているノア殿下を連れて、四阿を離れて行った。
◇◇◇
四阿から少し離れ、アビゲイル様たちから見えない位置まで来たので、立ち止まってノア様の方へ振り返ります。
そして私は何とか言葉を選びながら、彼に事実を伝えました。
「ノア様? とても言いにくいのですが、アビゲイル様は所謂『オジ専』なのですわ」
「オジ専? 何だい? それは」
意味の分からない言葉に若干眉間にシワを寄せるノア王太子殿下。
マリーは申し訳なさそうな、残念そうな表情を浮かべている。
「オジさま専門ということですわ。ある程度年齢のいった渋味のある男性に魅力を感じる人のことを指します。ですから、努力とか頑張りなどでは……」
「アビーの好みには、私は若すぎるということか……」
「ええ、残念ながら」
正直ここまで伝える必要はなく、放っておいても良かったのですけどね。
ただここ数ヶ月、四阿で一緒にランチするようになり、ノア様は見た目だけでなく、性格もまあまあ良い方だと知ってしまいましたし?
オジ専なアビゲイル様がノア様に想いを寄せる可能性はまずないと言えますから、それを知って諦めるのか、それとも不毛な想いを持ち続けるかは彼次第ということになるのでしょうが。
知らないよりは知っていた方が良いと判断して、私の判断で勝手に伝えさせて頂きました。




