1
夢じゃないかしら? と自らの頬をつねってみる。
うん、普通に痛かった。
近衛騎士団宿舎を出て、当初の予定通りマリー様の実家がオープンされたカフェへと向かい、先ほど学園寮へと戻って来たところだ。
……大好きなサミュエル様とお付き合いすることになりました。
『私はもう、君を離してあげられそうにないから』
サミュエル様の台詞を脳内再生し、一人ベッドの上で枕を抱えながら「うへへ」とゴロゴロ転がりながら悶えているところにミアが扉を開け、バッチリ見られてしまって。
いつものように残念なモノを見る目を私に向けたまま、ゆっくり扉を閉められる。
だって、脳内再生が忙しくって、ノックする音が聞こえなかったんだもの。
でも、いいわ。どんなに残念なモノを見る目で見られても、今なら何も感じないわ!
近いうちに彼がお父様に挨拶にみえることになり、お父様に認めてもらえれば早々に婚約を発表するつもりだ。
自分より年上の相手を連れて来る事に吃驚されるだろうけど、きっとお父様は渋々といった表情を顔に浮かべながらも了承してくれるだろう。
だって、サミュエル様は私が心から愛する人だから。
……きゃぁぁああ、愛する人だってぇぇぇええ。
恥ずかしい~!!
先ほどよりも激しくゴロゴロと悶える。
好きな人に自分を好いてもらえることが、こんなにも幸せなことだなんて知らなかった。
前世・現世を通しての初恋。
それが叶った今、最高の浮かれポンチになっていても、仕方がないわよね?
先ほどお会いしたばかりだというのに、もうサミュエル様に会いたいと思う。
毎週末にお会いしに行くのは迷惑になるかしら?
サミュエル様のお休みの日はいつかしら?
出来ればエスコートして頂いて、街を二人でデートしてみたい。
また頭を撫でて欲しい。
色々な欲求が溢れ出て、私は自分がこんなに恋にのめり込むタイプなのだと初めて知った。
いやぁぁぁあん、幸せ過ぎるっ!!
◇◇◇
「アビゲイル様? 笑顔が眩しいですわ」
マリーさまが苦笑気味に言うと、ミランダ様とミレーヌ様も苦笑いしながら頷く。
私の当社比二倍な笑顔に、クラスメートの方々は何やら聞きたそうな顔をしていたけれど、マリー様たちが私の周りを囲ってくれているお陰で、余計な詮索はされていない。
そんなこんなでお昼休憩に入り、いつもの四阿にて先ほどの台詞です。
「ごめんなさいね、昨日から顔が戻りませんの」
「お気持ちは分かりますわ」
ミランダ様が微笑ましいものを見る目で私を見ている。
何だかこっ恥ずかしいけれど、嬉しい!




