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「私は、君のご両親と同じかそれより年上なんだよ?」
「存じておりますわ」
彼女は真っ直ぐな瞳を私に向けたまま、静かにそう答えた。
「君はまだ若くて美しい。こんなオジサンでなくても、いくらでも……」
「私は! 例え両親より年上であっても、オジサンであっても、サミュエル・トレス様、貴方がいいのです。貴方以外の方では駄目なのです!」
がむしゃらに強さを求めて突き進んで、騎士団長まで登り詰めた自分。
それについて後悔はしていない。
けれども時々、ふと隣に生涯の伴侶という者がいたらどうだったのだろうかと思うことはある。
若い頃は色々な女性を薦められることもあったが、十年程前からそんな話もパッタリとなくなった。
私を選んでくれる女性はもう現れることはないと、少し寂しく思いはするが、それでいいのだと……。
「御迷惑、でしたでしょうか……?」
私が黙ってしまったことで不安になったのか、大きな瞳は揺れて、段々と俯きがちになっている。
気が付けばそんな彼女を抱き寄せている自分がいた。
腕の中で、彼女は驚きに大きな瞳を更に大きく見開いているが、そこから逃れようとはしなかった。
それを嬉しく思うのと同時に、私の言葉で傷付いた彼女の顔が思い出された。
「私は、君を傷付けた」
腕の中の彼女は私を見上げるようにして。
「それは、私を思ってのことと、聞いております」
「それでも! 傷付けてしまった……」
私はきっと今、情けない顔をしている。
娘と言えるほどの年齢の女性の前で、こんな情けない姿を晒すことになるなど、思いもしなかった。
「どう償えば良いのか……」
「償いなど、必要ありませんわ。ですが、お願いごとならあります」
「何でも言ってくれ」
「では。私を年齢に関係なく、一人の女性として見て頂きたいのです」
自分の想像と違う答えに、思わずポカーンと口を空けて彼女を見てしまった。
彼女はそんな私を見て微笑みながら言葉を紡いでいく。
「その上で、私に少しも気持ちが動かないのであれば、諦めます。ですが、もし……」
話の途中であったが、思わず彼女にまわした腕を強くし、隙間なく抱き締めた。彼女の口から『諦める』という言葉が出たことに、ショックを受けている自分がいた。
「勝手なことを言っている自覚はある。だが、私は君に、私を諦めて欲しくないと思っている」




