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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はオジサマに夢中です  作者: 翡翠
第九章 悪役令嬢アビゲイル・クラーク
84/103

1

「私は、サミュエル様のことを、一人の男性として、お慕いしております」


 目の前の少女は、眩しいほどに真っ直ぐな目で私を見つめながら、そう言った。


◇◇◇


 初めて彼女に会ったのは数ヶ月前のこと。

 その日もいつも通りに書類の山と格闘し、バキバキに凝った肩を回しながら、気分転換に訓練場へ向かうことにした。

 こういう時は体を動かすに限る。

 そんなことを言えば、副隊長からは呆れたように「これだから脳筋は」と言われるのだが、事実なのだから仕方がない。

 もうすぐ四十に手が届く年齢。

 独身、彼女なし。

 年がら年中むさ苦しい男ばかりに囲まれて、女性の気持ちなど全く理解出来ない私には、結婚というものは不向きなものとしてとうに諦めている。

 訓練場に到着すれば、そこには副隊長の姿があった。


「団長、気分転換ですか? 机の上の書類は全部サイン済みで?」

「ああ、一応全部終わらせて来た」

「それは良かったです。後ほど本日の残りの分をお持ちしますので、気分転換は三十分ほどで終わらせて下さいね」


 眼鏡の奥の切れ長の瞳が光った気がした。

 思わず苦笑いを浮かべてしまったが、それは仕方がないだろう。

 恐ろしく頭の切れるこの副隊長は、怒らせると後が大変だ。

 私は体を動かすことは得意だが細かいことは苦手で、その全てを彼が担当してくれているのだ。

 最早近衛騎士団は彼が回していると言っていいだろう。

 正直私に代わる者は多々いるだろうが、彼に代わる者はいたとしても極々少数であろう。

 それを言えば彼はしれっと、


「心外ですね。私に代わる者は極々少数ではなく、おりません」


 などと呆れたように言うのだ。


「今日は随分と活気付いてるな」


 中の様子を見てそう呟けば、副隊長が呆れたような顔をして


「ああ、若い娘さんが見学に来ているんですよ。若者は格好つけたがるものですからね」


 などと言うから、つい吹き出してしまった。


「そういうお前もまだ若者だろう?」

「いえ、もう二十代も後半ですし」

「私からすれば、まだまだ若者だよ。お前も格好つけてみたらどうだ?」

「遠慮します」


 苦虫を潰したような顔をするものだから、また吹き出してしまった。

 彼の肩を叩きながら、


「俺みたいに枯れるなよ」


 と言って、彼女がいる訓練場の中へと足を踏み入れた。

 私はまだ、彼女の存在を知らない。

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[気になる点] この話の『副隊長』って『副団長or副長or副官』の間違い?
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