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「私は、サミュエル様のことを、一人の男性として、お慕いしております」
目の前の少女は、眩しいほどに真っ直ぐな目で私を見つめながら、そう言った。
◇◇◇
初めて彼女に会ったのは数ヶ月前のこと。
その日もいつも通りに書類の山と格闘し、バキバキに凝った肩を回しながら、気分転換に訓練場へ向かうことにした。
こういう時は体を動かすに限る。
そんなことを言えば、副隊長からは呆れたように「これだから脳筋は」と言われるのだが、事実なのだから仕方がない。
もうすぐ四十に手が届く年齢。
独身、彼女なし。
年がら年中むさ苦しい男ばかりに囲まれて、女性の気持ちなど全く理解出来ない私には、結婚というものは不向きなものとしてとうに諦めている。
訓練場に到着すれば、そこには副隊長の姿があった。
「団長、気分転換ですか? 机の上の書類は全部サイン済みで?」
「ああ、一応全部終わらせて来た」
「それは良かったです。後ほど本日の残りの分をお持ちしますので、気分転換は三十分ほどで終わらせて下さいね」
眼鏡の奥の切れ長の瞳が光った気がした。
思わず苦笑いを浮かべてしまったが、それは仕方がないだろう。
恐ろしく頭の切れるこの副隊長は、怒らせると後が大変だ。
私は体を動かすことは得意だが細かいことは苦手で、その全てを彼が担当してくれているのだ。
最早近衛騎士団は彼が回していると言っていいだろう。
正直私に代わる者は多々いるだろうが、彼に代わる者はいたとしても極々少数であろう。
それを言えば彼はしれっと、
「心外ですね。私に代わる者は極々少数ではなく、おりません」
などと呆れたように言うのだ。
「今日は随分と活気付いてるな」
中の様子を見てそう呟けば、副隊長が呆れたような顔をして
「ああ、若い娘さんが見学に来ているんですよ。若者は格好つけたがるものですからね」
などと言うから、つい吹き出してしまった。
「そういうお前もまだ若者だろう?」
「いえ、もう二十代も後半ですし」
「私からすれば、まだまだ若者だよ。お前も格好つけてみたらどうだ?」
「遠慮します」
苦虫を潰したような顔をするものだから、また吹き出してしまった。
彼の肩を叩きながら、
「俺みたいに枯れるなよ」
と言って、彼女がいる訓練場の中へと足を踏み入れた。
私はまだ、彼女の存在を知らない。




