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「アビゲイル様、お客様がお見えです」
「まあ、どなたかしら?」
週末の今日、特に訪問の約束はしていなかったはずである。
「マリー様です」
「マリー様が? 直ぐお迎えして」
「畏まりました」
ほどなくしてミアがマリーを連れて戻って来る。
今日のマリーは、可愛らしいサーモンピンクのワンピースを着ている。
どこかへ出掛ける前のようだ。
「マリー様、どうぞそちらへお掛けになって」
「アビゲイル様、急にお邪魔してしまって、すみません」
マリーがペコリと頭を下げる。
「いいえ、特に予定もありませんでしたし、来て下さって嬉しいわ」
「まあ、そんな風に言って頂けたら、私。アビゲイル様さえよろしければ、いつでもどこでも駆けつけてしまいますわ」
「マリー様ったら。うふふ」
ミアが紅茶とお菓子の準備を終えて、一先ず自分の部屋へと下がるのを確認して、マリーはにっこりと笑顔で話し出した。
「アビゲイル様、実は今日お伺い致しましたのは、一緒にお出掛けして頂きたくて参りましたの」
「お出掛け、ですか?」
「ええ。先ほどミランダ様とミレーヌ様にもお声掛けしたのですが。私の実家がドルマン商会というのはご存知ですね? 実は先日、カフェをオープンさせましたの。若い女性客をターゲットとしたお洒落な、そして食事にも満足出来て、何度も足を運びたくなるようなお店を目指しております。そこで皆様にも実際カフェに行って頂いて、正直な感想を頂きたいのですわ
「私でお力になれるのでしたら、喜んで」
「嬉しいですわ。ビシビシ厳しい目での評価をお願いしますね」
「うふふ、分かりました。厳しくいきますわね。ところでカフェにはこれから向かいますの?」
「ええ、急で申し訳ありませんが、大丈夫でしょうか?」
「直ぐに支度をしますから、少しだけお待ちくださいね」
支度のために部屋を出て行くアビゲイルの姿が見えなくなると、マリーはフウと一つため息をつく。
とりあえず誘い出すことには成功した。
騙すような真似をしてしまったことに若干の罪悪感はあれど、こうでもしなければアビゲイルが近衛騎士団長に会おうとしないことも分かっていた。
兄に今日は団長が訓練場に足を運ぶことになっているのは確認済みであるし、あとはアビゲイルを連れて行くだけなのだ。
不器用だろうが何だろうが、団長にはキッチリとアビゲイル様に謝罪でも土下座でもしてもらわなければならない。
周りが誤解だの何だのと言ったところで、団長本人の口からキチンとした説明がなければ意味がないのだ。




