9
気持ち的には直ぐにでも「はい、喜んで!!」と某居酒屋の如くお返事して差し上げたいところだけれど、ここはグッとその言葉を飲み込む。
「……理由を、伺っても?」
アビゲイルの問いにライアン殿下は蔑むような目を向けて、またまた声高々に宣言して下さいましたよ、ええ。
「貴様はシャルロットに散々威圧を繰り返していた。そのようなことを平気で出来る女との結婚など有り得ん。貴様との婚約は破棄して、このシャルロットを新たな婚約者とする」
……それ、完全なる言い掛かりだよね?
威圧していたのは『あなた』が『わたし』にでしょ?
あちらこちらでヒソヒソと言い掛かりだ何だと声が聞こえてくる。
マリー様の流してくれた噂と、悪役令嬢とならないための私の努力が今実を結んだと思っていいのだろうか。
私は出来るだけシャルロットには近付かないようにしていたし、ドレスにワインを掛けられたのも私の方だったから、周りの方々からしてみれば被害者は私なわけで。
ライアン殿下はもう少し周りを見ること、聞くことを覚えた方がいいと思う。
……もう関係のない方だから正直どうでもいいけど。
「威圧云々は身に覚えが御座いませんが、ライアン殿下が私との婚約破棄を望まれておられることはよく分かりました。私アビゲイル・クラークはライアン殿下との婚約破棄を了承致します」
学園関係者と卒業生の保護者(殆ど貴族)という大勢の目撃者の前で、堂々と完璧な所作でお辞儀をする。
そこへタイミング良く、国王様が到着された模様。
到着と同時にこの茶番を側近から耳打ちされた国王様は大慌てで、けれどそれに気が付かない空気の読めない第二王子のライアン殿下は嬉しそうにズイッとシャルロットを目の前へと押し出した。
「父上、私はアビゲイルとの婚約を破棄して、このシャルロットを新たな婚約者と致します」
押し出されたシャルロットは落ち着きなく国王様へ自己紹介をしようと口を開きかけた時。
国王様の目がアビゲイルをとらえ、シャルロットの存在は完全に無視された。
「アビゲイル嬢、一体どうなっている?」
「ライアン殿下の仰る通り、先ほど婚約破棄を言い渡されまして、了承致しました。国王様、王妃様にはこれまで大変良くして頂き、感謝申し上げます。私これから父の元へ向かいまして説明せねばなりませんので、御前失礼致します」
そしてわざとライアン殿下の後ろを回るようにして会場を後にした。
国王様はアビゲイルを引き止めようとするが、そこをライアン殿下が必死にシャルロットを認めさせようと邪魔をする。
予想通りの動きをして下さるライアン殿下。グッジョブ!




