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それは卒業パーティーの一週間前のこと。
ライアン殿下が突然アビゲイルの前に現れたのだ。
彼の方からアビゲイルを訪ねたのは、彼女が入学してから初めてのことである。
「アビゲイル、お前に話がある」
放課後とはいえ周りにはまだ他の生徒たちもおり、そんな中での『お前』呼び。
アビゲイルは盛大な溜息を心の中で吐きつつ、
「あまり体調がよろしくありませんので、侍女を呼び帰るところでございましたの。申し訳ございませんが、お話でしたらまた後日でお願い申し上げます」
深々と頭を下げた。
ここまでされて、それでも無理に話を聞かせようなど、出来るはずもないでしょう?
マリー様の予想通り、婚約破棄の話をしに来たようだ。
でも、その話はまだ聞くわけにはいかない。
断られたことに苛立ちの表情を隠すことなく、『ちっ』と舌打ちをした後、ご丁寧に睨みつけてから踵を返す。
全く、チンピラじゃあるまいし。
その態度は品性の欠片もないわね。
それって王子様としてどうなの?
……なんてことは私には関係ないし、どうでもいい。
さて、一週間どうやって引き延ばそう?
◇◇◇
結果、私はシンプルに体調不良を理由に、一週間引き篭もり生活をしていた。
女子寮には例え王子様といえども入っては来られないので、それが一番確実なのだ。
……授業は少し遅れてしまったけれど、ミランダ様たちが交代でノートをとっていてくれたので、それほど気にしていない。
放課後ノートを届けるという理由で 毎日部屋へと寄ってもらって、今後についての話し合いを重ね、あっという間に一週間が過ぎていった。
マリー様曰く、毎日のようにライアン殿下が話をしようと教室まで姿をみせていたようだ。
随分とマメなのね。
そして日に日に苛立ちを募らせているらしい。
この分ならば、卒業パーティーで私の姿を見つけた途端にカッとなって、婚約破棄を声高々に、大勢の方たちの前で宣言して下さることでしょう。
自由を手にするまで、あともう少し。
最後まで気を抜くことなく、破滅ルートを回避するのよっ!!




