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シャルロット目線です
「学園卒業後にライアン殿下とアビゲイル様が結婚されるらしい」
シャルロットがその噂を耳にしたのは、つい先日のこと。
「そりゃそうだよな、平民上がりの下位貴族の令嬢と侯爵家の令嬢とじゃ、比べるまでもないか」
「卒業したら遊ぶ時間なんてなくなるだろうし、学生の間くらいは好きにさせろってところなんじゃないか? ハハハ」
彼らのいる位置からは丁度死角になる場所に、シャルロットはいた。
彼らは彼女の存在には気付いておらず、面白おかしく好き勝手に話しているようだった。
シャルロットはショックで聞いていられなくなり、気付かれぬようにその場から逃げ出した。
気が付けば屋上のベンチまで来ていて。
授業の時間になってもそこから動くことが出来なかった。
「ここにいたのか、何かあったのか?」
授業に出なかった私を心配して来てくれたライアン様。
本当はこんなことを言うつもりはなかった。
身分違いなことは自分が一番よく分かっている。
学園にいる間だけでいいと思っていたはずなのに、私はどうしてこんなに欲張りになってしまったんだろう。
「ライアン様は、卒業されたらアビゲイル様とご結婚されるのですよね? 私は、一人でどうしたらいいのでしょう……」
こんな言い方は狡い。
でも一度口から出てしまったら、止められなくなってしまって。
「他に婚約者がいる方と、ずっと一緒にいるなんて、やはり無理なことだったんです……」
涙も止まらなくなってしまって。
どれくらいそうしていたのか。
ライアン様がポツリと口にされたことに吃驚して、思わず涙も止まってしまった。
「今まで中途半端にして来た私の責任だな。こんなに泣かせてしまった。私はアビゲイルと結婚するつもりなど毛頭ないし、シャルロットを手放すつもりもない。……君に辛い思いをさせるくらいなら、アビゲイルとの婚約を破棄しようと思う」
「……え?」
聞き違い? 婚約破棄って聞こえたのだけど?
これでもかと言うほど目を見開いて固まっていると、ライアン様は可笑しそうに笑いながら私の頬に手をあてた。
「私の横にいて欲しいのはアビゲイルじゃない。シャルロット、君だ。これからもずっと私の隣にいてくれるね?」
さっきまでの涙は悲しい涙だったけれど、今視界を覆っている涙は嬉し涙だ。
どこから出て来るのかと思うほどに、次から次へと湧き出て来る。
私は震える唇を何とか動かしてライアン様に返事をした。
「はい」
ずっと、ずっと一緒におります。




