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車寄せにて。
貴族令嬢の歩みはとっても遅く、走ることなど殆どない。
イザヤ様の出現で予定外の時間をくってしまったので、淑女の全速力で向かい何とか時間には間に合ったけれど、予定にない人物の登場にノア様も困ったような顔をしている。
「アビー? もとの場所に返して来なさい」
「ノア様、犬猫ではございませんのよ?」
ノア様とマリー様によるブラックなジョークの掛け合いがいきなり始まったが、どうしよう? 全く笑えない!
なんて、私が心の中で頭を抱えていると。
「と、まあ、冗談はここまでにして。アビー? 説明してくれるかな?」
ノア様がいきなり話を振ってくる。
説明と言われても、どこから何と説明したらいい?
私が困っているとマリー様が一言。
「懐かれました」
え〜っと、マリー様? 犬猫ではないと先ほど言っていたのは、あなたよね?
「……そうか」
いやいや。ノア様もそこで納得したらダメだから!
ほら、ミランダ様とミレーヌ様が微妙な顔をされてるじゃない。
イザヤ様に、自身のことを言われているのに、何か言ったらどうなの? という意味を込めて視線を向けるが、
「俺は護衛として着いて行くだけだ。居ないものとして扱ってくれていい」
一言言って、黙ってしまった。
王太子殿下であるノア様に護衛がついているのは当然のことなので、学生であるイザヤ様がいかに優秀とはいえ、必要ないと思うのだけど。
私の言いたいことが分かったのか、イザヤ様が答える。
「彼らが一番に守るのは王太子殿下だ。だから俺は君を守る」
ええと、どこからツッコミ入れたらいい?
これは押しかけ女房ならぬ押しかけボディーガード(仮)というヤツ?
イラナイ……。
頼んでないけど、クーリングオフ出来ませんかね?
ノア様が困り顔の私の頭を撫でながら、小さく息を一つ吐いてから言った。
「舞台の時間もあるから、とりあえず向かうとしよう。仕方がないから君も一緒に来てもらうよ」
そうしてなぜか一台目の馬車にノア様とイザヤ様と私が、二台目の馬車にミランダ様とミレーヌ様とマリー様が乗り込むという状況になったのだ。
なんでだ!?




