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「いえ、私も少し大人気なかったですわね。失礼いたしました。それでは私たちは待ち合わせをしておりますので、これで」
正直攻略キャラの彼とはこれ以上かかわりたくなかったので、サクッとお辞儀をして踵を返すと、また右腕を掴まれてしまった。
無意識だったようで、気付くと慌てて「悪い」と手を離す。
そして少しだけ悔しさの滲んだ顔で話し出した。
「先日、君に言われたことをずっと考えていた。どうやら俺は、君の言う『井の中の蛙』そのものだったようだ。言われるまで気付けなかったとは、我ながら情けないことではあるが……」
彼の言葉に、少しだけ感心してしまった。
この人は、ただ偉そうにしているだけの人ではなかったようだ。
少なくとも、自分の非を認め謝罪し、受け入れることの出来る素直さを持っている部分には好感が持てた。
だからつい、余計なことまで言ってしまったのだ。
「自分にとって都合の悪いことを認めるということは、とても難しく勇気のいることですわ。貴方はそれを認め、気付くことの出来る方ですもの。きっと、更に上を目指していけると思いますわ。頑張って下さいませ。陰ながら応援させて頂きますわ」
だってね、前世と合わせて三十三歳の私。
小・中学生くらいの子どもがいても、べつにおかしくはない年齢なのよね。
それより少し大きいかもだけど、私からしてみたら、まだまだ可愛らしいお子様なのだ。
色々悩んで一歩ずつ大人に近付いて行く姿に、思わず頭をナデナデしたくなる衝動を抑えるのが大変だった。
だからといって、これ以上表立って何かするなんてことはない。
後は自分の力で何とか頑張って! ……と思っていたのに。
この人ってば、「目を覚ましてくれたお礼がしたい」と言って引きゃしない。
出掛けると言えば女性だけでは危ないと言い、男性もいると言えば何かあってはいけないから護衛がわりに着いて行くと言って聞かない。
ノア様との待ち合わせ時間もあるので、仕方なく無視しながら車寄せまで向かっている。
ミランダ様とミレーヌ様が並んで歩き、その後ろをマリー様と私が、更にその後ろをイザヤ様が着いて来る……。
先ほどまでは皆と和気藹々と愉しく向かっていたはずなのに、誰一人として口を開かず、ただただ歩いて目的地へと進む異様な集団と化してしまった私達。
この人、こんな空気読めないキャラだったっけ?
寡黙で真面目なコツコツタイプで、こんなに自分を押してくるようなキャラではなかったと思うんだけど?
クールな彼がヒロインに落ちた途端甘々になるところに萌えた方達がいたようだけど、サミュエル様以外に全く興味がなくて、とりあえずクリアはしたけど正直あまり覚えてないっていう、ね。




