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「どうやって解消するかなどはまだ考えておりませんが、出来るだけクラーク家に害が出ないようにしたいと思っております」
まあ、本来なら(自力で逃げ出せないほど遠方の僻地にある)修道院送りになって、家からも見放されて終わりなワケだから、婚約解消によってアビゲイルに多少の害があったとしても、それよりはマシな結果になるだろうと思ってる。
希望としては修道院へ行かず、結婚は別に出来なくてもいいから家にいられたらいいなぁ、と。
やっぱり家族に見限られるのは嫌。
特に可愛い可愛い可愛い……(しつこいので割愛)弟に見限られたりなんかしたら、私はもう立ち直れない!
「アビゲイル様、私たちも丁度そのお話しをさせて頂こうと思っておりましたの」
ミランダ様が、和やかにそう言った。
ん?
ミランダ様に続いてミレーヌ様とマリー様も。
「その説明をさせて頂くために、今日のお茶会を申込みさせて頂いたのですわ」
「詳細については私から……」
婚約解消までの流れ(予定)を説明してくれました。
結果、私号泣しております。
だって、私のために皆がこんなにも色々と考えて協力してくれるなんて……。
相手はお馬鹿とはいえ、王族の一員なのよ?
ヘタをすれば不敬罪として罰を受ける可能性だってあるのだから。
「ありがとうございます。皆様、本当に、ありがとうございます。どれだけ感謝してもし足りないほどに、感謝申し上げます……」
ありがとうや感謝なんて言葉では足りないのに、それ以上になんて言ったら良いのか。
私の語彙力のなさに今更悔やんでも仕方のないことだけど。
本当に、感謝することしか出来ない私。
もし皆に何かあった時には、何をおいても駆けつけるからね!!
私が泣き止み落ち着いたところで。
「先ほど話しましたように、噂を流すのはこちらで手配致しますので、皆様は何処かで耳にするまでは知らないフリをなさってくださいませ。もちろんアビゲイル様もですわよ? 段階を踏んでシャルロットが耐えきれなくなってクソ殿下に泣きつくまで、色々な噂を流していきます」
マリー様はここで一息入れて、優雅な仕草でティーカップに口を付けると、ホウと感嘆の声を漏らした。
「ミアさんの淹れるお茶は美味しいですわね」
ニッコリ笑顔でカップをソーサーへ戻す。
「時間は多少掛かってしまいますが、クソ殿下はシャルロットにベタ惚れされておりますし、彼女からアビゲイル様との婚約解消を請われたら、喜んでアビゲイル様のもとに来て宣言してくださることでしょう。……それがご自分の首を絞める行為だと理解することもなく、ね。出来ましたらソレは、こちらとしては出来るだけ人目のあるところが望ましいですわね。なかったことに出来ないほどの『目撃者』の前が」
そう言って、うふふと笑った。
マリー様の計画によると、こちら側は段階を踏んで噂を流すだけ。
他に特に何かをするでなく。
私たちはそれぞれの噂を耳にした時々に、普段通りに対応していけばいいそうだ。
……普段通りって、意外と難しいのよね。
普段どんな風にしてたっけ?
まあ、何とかなるでしょう。
それにしても、噂だけで自分の思う通りに事を運ぶだなんて、噂って、怖い。




