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「才能に甘んじることなく努力されている姿はとても素晴らしいですわ。但し、目線に気を付けて下さいね」
彼の視線は真っ直ぐで正直だ。
大体は全体を見ているのだが、時々攻撃する場所に一瞬だがピントが合う時があるのだ。
そうなると「僕は次はここを狙っていますよ〜」と丁寧に教えて差し上げているのと同じことになってしまう。
フェイントで使うのならばいいのだが、彼のものはそうではないのだ。
学生の間はそれでも敵なしなのであろうが、傭兵や騎士などの戦いに身を置く職業の方々の中に入った途端に通用しなくなってしまう。
それから挫折を味わうよりも、なるべく早めに気が付いて対処した方がいいだろうと思っての言葉だったのだけれど。
「女がわかったような口を聞くな」
イライラしたような口調で睨み、女を馬鹿にしたようなその物言いに、とってもとっても頭にきてしまったので、つい。
「その女にも分かるような『欠点』を教えて差し上げましたのに、随分なお言葉ですのね。……これだから井の中の蛙は。ふぅぅ」
余計に相手を煽るような言い方をして、更に盛大な溜息のオマケも付けてしまった。
「いのなかのかわず?」
苛立ちを隠さず、けれど私の言葉の意味が分からず気になったのか、片方の眉毛を上げて怪訝な顔で呟くので、優しい私は丁寧に、丁寧に(←ここ大事)教えて差し上げましたよ、ええ。
「正確には『井の中の蛙大海を知らず』ですわね。他に広い世界があることを知らず、自分の周りの狭い範囲だけを見てものを考えているさま。つまり『狭い知識にとらわれて大局的な判断の出来ないもの』の例えですわね」
彼は私の言葉に呆然と立ち尽くし、動く気配がないので、これ以上ここにいるのも時間の無駄と判断し、
「では、失礼致します」
と告げて寮の部屋へと足を進める。
全く、他人の意見にすこしは素直に耳を傾けなさいよね〜。
可愛くないったら。
少年をやり込めたことで少しは溜飲が下がる思いだが、時間を無駄にしてしまった。
早く部屋に戻ってミアに美味しいご飯を作ってもらい、女子会の準備もしてもらわなければ。




