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(マリー兄)ローガン目線です。
この二人、何かと団長に突っかかるのだが、団長にしてみれば蝿が飛んでるくらいにしか思ってないようで、全く相手にもしていない。
近衛騎士団の皆が団長を慕っていることも面白くないらしく。
「何かあれば隊長の私に聞くがいい」
上から目線で言ってくるが、何か聞かれて答えられるのか?
無理だろう?
数ヶ月前から、マリーと一緒に宿舎へ来るようになったアビゲイル嬢を可愛がる団長を見て、
「騎士団長は娘ほどの歳の子どもに手を出しているらしい」
「宿舎に女を連れ込んでいる」
などなど、面白おかしくワザと色々な団員の前で話し出すのだ。
まあ、誰も相手になどしていないのだが。
ただ、この話を団長が耳にしてしまったのだ。
自分が何かを言われるのは構わないが、このままでは彼女に迷惑が掛かってしまう。
噂が小さな内に彼女に宿舎から遠のいてもらえば、そのうち噂も消えるだろうと考えたらしい。
マリーじゃないけど、本当に「もっと他に言いようがあっただろう?」と言いたい。
団長のことは憧れているし、尊敬もしている。
けど、フォローする身にもなってくれ。
マリー怒らせると怖いんだよ……。
団長がアビゲイル嬢を傷つけてしまった翌日、早朝からマリーがやって来てどうしてそうなったのか、急いで詳細を調べるように言われたんだよな。
で、結果を書いた手紙を送ったわけなんだが。
その結果が、淀んだ空気の換気。
淀んだ空気はもちろん『お荷物』と言われる隊長と副隊長のこと。
換気は空気の入れ換えのことで、要は隊長と副隊長の首の挿げ替え……。
この妹にはそれをやってのける力があるから恐ろしい。
以前マリーが熱心に情報を集める姿を見て、他の商会の息子がそれをバカにしたことがあったのだ。
マリーは悔しそうに顔を歪めながら、
「私自身はなんの力もない小娘ですけれども、情報の力を舐めてもらっては困ります。情報操作によっては、国一つ落とすことだって出来ますのよ? ましてや人ひとり貶めることなど簡単ですわ」
と憎々しげに呟いていた。
商会の息子は幸か不幸かソレを聞いていなかったが。
……後にその商会は不正が発覚して潰れたらしい。
腰に手をあてて「情報を甘く見た結果ですわね」とドヤ顔で言ったマリーを、俺は一生忘れない。
今回マリーの大切な友人を深く傷付け(直接傷付けたのは団長だが)、それによってマリーを激怒させてしまった隊長と副隊長。
彼らの姿を見られるのはあとどれくらいか……。
ま、どうでもいいや。
所詮お荷物たちだしな。
安らかに眠ってくれ!




