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マリー目線です。
「本来ならば穏便に婚約を白紙に戻せたら良かったのでしょうけど……今までのライアン殿下のなさりように、私、本当に腹立たしく思っておりましたの。今回のことは殿下の自業自得でございましょう。私、心置きなく協力させて頂きますわ!」
内容が内容なだけに、一度は協力すると言ったものの、真面目気質のミランダ様は悩まれたと思います。
……完全に吹っ切られたようですが。
とにかくミランダ様とミレーヌ様という心強い協力者をゲットすることに成功した。
あとは……。
「噂を流して下さる協力者が必要ですわね」
「協力者、ですか? 私たちでなく?」
「ええ。アビゲイル様の友人である私たちが直接動きますと目立ちますわ。ですから、全くの無関係な方たちにあらゆるところから噂を流して頂きますわ」
「そんな都合の良い方々がいらっしゃるかしら?」
「私のお願いを断れない方々がいらっしゃいますので、その方たちにお願い致しますわ。……人間、人に知られたくないことの一つや二つや三つや四つ、あるものですわ」
後半部分は囁くように言ったために、ミレーヌ様やミランダ様の耳には入らなかった模様。
午後の授業の時間が迫っていたので、ここで一旦話を終わらせ四阿から教室へ戻ることに。
◇◇◇
その日の夜。
学園寮のマリーの自室にて。
「まずは誰に何を言わせるか、よね。サロンに入り浸ってる話し好きの貴族の子息令嬢に『ここだけの話』としてうまく囁いて頂かないと。話を聞いた皆様に妄想力を掻き立てて頂けるような言い回しがベストだわね」
噂好きの貴族の耳に入ったが最後、ここだけの話がここだけで終わるはずがない。
憶測も交えて噂はあっという間に本人たちの知らぬ間に広がっていくことだろう。
それは水面に一石を投じて広がる波紋の如く、静かに……。
「本当、貴族の噂話はえげつないですものね。私が言うのも何ですけど。ふふふ……」
貴族ではないマリーには侍女はおらず、部屋には彼女一人であり、身の回りのことは全て自身で行なっている。
紅茶を淹れようとソファーから立ち上がった時に、スカートに触れたのかカサッと音がした方へ目を向けると、テーブルの隅にマリー宛の手紙が置いてあった。
「そういえば、お兄様から手紙が来てましたわね」
少しの間放置されていた、兄の手紙に手を伸ばす。
手紙を読み進めるほどに、マリーの口角がだんだんと上がっていく。
「ふふふふふ。アビゲイル様と団長の仲を面白おかしく揶揄していたのは、やっぱり空っぽ次男隊長と(脳内)花畑三男副隊長のお二人でしたか。実力もないのに、(親の)威光を笠にきて好き放題されてましたわね。……そろそろ(騎士団の)世代交代されてはいかがかしらね。うふふ」




