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マリー目線です
私はまず二人に、先日の近衛騎士団宿舎での出来事と、お兄様から聞いた団長様側の立場をお話しした。
「……という訳ですの。私が見たところ、団長様も満更ではなかったはずなのですが、所詮は『脳筋』ですからね。アビゲイル様にとってよろしくない噂が広まらないようにするためとはいえ、言葉を選べず、アビゲイル様をただただ傷付ける結果になった訳です。それについては団長様には後に盛大に反省して頂くとして……」
ここで一旦話を区切り、大きく深呼吸をし、そしてーー。
「やはりアビゲイル様とクソ殿下の婚約を、白紙に戻しましょう」
私がそう告げると、二人は驚きに目を見開き、声を揃えて半ば叫ぶように問う。
「「そんなこと、出来ますの?」」
私は肯定の意を込めて頷いた。
「ふふふ……アビゲイル様を散々蔑ろにして頂きましたからねぇ。あのお馬鹿たちを天国から地獄へ導いて差し上げようかと。うふふふふ」
「天国から地獄、ですか?」
「ええ。……腹立たしいことに、あんなクズでも王子という肩書きがあるために、誰も意見することが出来ませんわ」
「はぁ……」
「残念ながら貴族間での婚約解消はどんなに理不尽であっても女性側に傷がつきますから、(アビゲイル様が)無傷で婚約を白紙にすることは難しいですわね。
ただ、幸いにもアビゲイル様は男性・女性・貴族・平民と関係なく、皆様に慕われておられますから、傷は最小限のもので済むはずです。そして計画通りに婚約が白紙に戻された後、彼の評価は正当なものに戻りますから、それによってアビゲイル様の小さな傷もあっという間に塞がりますので、それまで少しの間辛抱して頂くことになりますが。……まあ、あちら側は大きな傷というより瀕死の重症かもしれませんが、知ったことではありませんね。お礼はキッチリと返しませんと、ね」
ミランダ様は真面目故に少し困惑されておられるようですが、ミレーヌ様は実に楽しそうにしている。
「そうですわね。散々アビゲイル様を蔑ろにされておりましたお礼ですものね? その計画内容、どうやって導かれるのか詳しく教えて下さいます? 私も協力は惜しみませんわ」
……どうでもいいけれど、誰も私の『クソ殿下』発言を訂正しませんね。
通常、格上の家から求められた婚約は、既に婚約者がいるなどの理由がない限り断ることが難しいし、破棄することも余程正当な理由がない限りは受理されることはない。
簡単にお断りが出来るのであれば、アビゲイル様が既に断っているだろうし、何よりミレーヌ様たちがとっくにお断りを勧めていただろう。
アビゲイル様自身がソレを望んでいるのだから。
にも関わらず、マリーは婚約を白紙にすると断言した。
ミランダが困惑するのは当然のことと言えるだろう。
「クソ殿下とシャルロットの体の関係を周知の事実とし、クソ殿下に婚約破棄するよう、シャルロットからお願いさせるように仕向けます。それと同時にその噂がクラーク侯爵様のお耳に入るように致します」
うふふ~と楽しそうに笑いながらそう告げるマリーに、ミランダたちが心の中で『笑顔で言うことではないです!』と盛大にツッコミを入れていたことは、誰も知らない。




