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マリー目線です。
「私からいつでも来ていいと言っておきながら申し訳ないが、貴女が来るようになってから騎士たちの士気が下がっている。身内に騎士のいるマリー殿はいいとして、部外者である貴女には、今後の出入りはご遠慮願おう」
無表情で淡々とそう言い切った団長様。
こんな団長様の姿は、私でも見たことがない。
一体何が起こっているの?
ただ呆然と団長様を見ていると、アビゲイル様が涙を堪えながら、何とか震える唇を動かすように謝罪の言葉を口にし始めたのだ。
「み、皆様、に……ご迷惑をお掛けしていたことにも気付かず、申し訳、ありませ……でした。し、失礼、致し、ます……」
何とか言い切ると、礼をしてから顔を伏せるようにして走り出してしまう。
私は思わず団長様を睨みつけて、慌ててアビゲイル様の跡を追った。
……って、全然追いつけない!? 寧ろ差が広がっている?
アビゲイル様って、こんなに足が速かったの?
吃驚するほどの俊足に息を切らせながら、ようやく宿舎入口の辺りで追いつく。
というより、アビゲイル様が入口で立ち止まったのだ。
追いかけては来たものの、何をどう話せばいいのか。
俯き加減のアビゲイル様の顔を覗き見ると、元々陶器のように白い肌が、青白くなっている。
慌てて馬車に乗り、急ぎ学園寮へ向かい寮の部屋までお連れすると、アビゲイル様の侍女のミアさんが出て来ました。
顔色の悪いアビゲイル様を二人でベッドまで運ぶようにして連れて行く。
そこから先はミアさんがお世話することになるので、とても心配だけれど彼女にお願いして部屋を後にした。
◇◇◇
次の日、朝一で近衛騎士団宿舎のお兄様の部屋に襲撃した。
「団長様は頭の中まで筋肉で出来ているのではなくて? でなければ頭わいてるんですわっ!! なぜアビゲイル様にあんな嘘をっ? 騎士の士気が下がるどころか、皆アビゲイル様に良いところを見せようと、逆に上がってますわよっ!」
マリーの怒りは凄まじく、般若の形相で掴みかかる。
「いや、多分他の騎士に示しがつかないとか、ライアン殿下の婚約者に変な噂が出ないようにとか考えてだな……」
実際、アビゲイル様を可愛がられていた団長様とアビゲイル様の仲を、面白おかしく揶揄する輩がいたらしいのだ。
「だからと言って、何を言っても許されるとでも? もっと言い方っていうものがあるでしょうよ。私はアビゲイル様に、あんな傷付いたお顔をさせるためにこんなところへ連れて来たわけじゃないんですのよっ!?」




