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「それにしてもアビゲイル様、随分と悪い虫が飛び交っておりますわね」
ちょっ!? 思わず折角の美味しい紅茶を吹き出すかと思った。
マリー様が実家から取り寄せたという珍しい紅茶とお菓子を届けに来てくれて、「よろしかったら」とお茶に誘ったのだ。
早速頂いたお茶をミアに淹れてもらい、お菓子をテーブルに並べ、ミアが席を外した途端の先ほどの台詞だった。
それにしてもマリー様、前々から思ってたけれど、かなりの毒舌さんよね?
……まあ、私は嫌いではない。
というより、アッサリ、サッパリ、バッサリな彼女の性格は寧ろ好きだったりする。
マリー様にかかれば、高スペックなはずの攻略キャラも『ばい菌』や『虫』扱いなのだ。
とはいえ、一応他国の王太子殿下も一括りに虫扱いは、誰かの耳に入ったら大変なことになる。
ミアのことは信用しているが、この世に『絶対』などないと思っている私。
この世界では拷問や自白剤など、裏で平然と使用されていたりするのだ。
犯罪者に人権などと唱える者はいないし、犯罪者でなくても欲しい情報を引き出すために使われることがあると聞く。
とある裕福な貴族の屋敷の使用人が拐われ、屋敷内の情報を得るために拷問や自白剤を使用し、廃人同様となった使用人が見つかったなどという噂話も耳にしたことがある。
出来る限り内々の話などは聞かせないことが、使用人のためにもなるのだ。
「マリー様? さすがに虫扱いは……」
言いにくそうに苦笑を浮かべてそう言えば、マリー様はコロコロと笑った。
「あら、一緒にしては虫に失礼でしたわね」
だからね、誰かに聞かれたらホント危険なんだってばぁぁぁあああっ!!
「アビゲイル様、そんなに心配されなくても大丈夫ですわ。内緒話を聞いているような人間がいないことは確認済みですの」
「確認て……あの、どうやって?」
そんな素振りなかったと思うのだけど?
マリー様は右手の人差し指を立てて口の前に持ってくると、妖艶な笑みを浮かべた。
「それはヒミツですわ」
……マリー様、あなた何者ですか?




