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「うざいのよっ! バカの一つ覚え男がぁぁぁっ!!」
ボスッという音を立てて、投げつけられたクッションが壁から床へと落ちていく。
肩で息している割に大した威力があったわけではないが、お嬢様は非力なので致し方ないのだ。
ここは寮内の自分の部屋であり、室内には自分と侍女の二人だけである。
大事なことなので、もう一度。
自分と侍女の二人である。
『何やってるんだ、この馬鹿は』という目で私を見ていた侍女の目が、気の毒なものを見る目に変わったのはいつだったか……。
だから、そんな目で私を見るのはやめて!
お嬢様って、ストレス溜まるのよ!!
私がこんな風に荒れている理由は、ここ最近の仔猫ちゃん男ことレオン・スタンレーにある。
ランチを終えて午後の授業のために教室へ戻る時に、必ず出没するのだ。
お姫様抱っこや腕を掴まれるといったことはもうないが、こちらは会いたくもないのに毎日毎日毎日毎日……(しつこいので割愛)。
「やあ、また会ったね。アビゲイル嬢と仔猫ちゃんたち」
そう言って現れるのだ。
もはや私の中でヤツはGと同列の扱い。
バルサン焚かなきゃダメかしらと、ちょっと本気で思っている。
ていうか、何がしたいの?
ミランダ様たちも完全にひいてしまっているし、特にミレーヌ様は「ストーカー怖い」と本気で怯えている。
残念ながらこの世界にはストーカー規制法がないため、排除が出来ない。
嫌がらせですか?
ってか、嫌がらせよね?
因みに私たちがいつもランチしている四阿は中庭にひっそりと建っており、中庭へと続く出入り口は三箇所ある。
渡り廊下のある中央出入口と左右端に一つづつ。
本校舎である教室棟から続く渡り廊下の先には、食堂や図書室などといった教室以外の棟が建っている。
四阿は教室棟中央出入口を正面に見て、中央出入口と左端出入口の中間よりやや中央寄りだ。
ノア様の教室は一階の右端寄りのため、教室へ戻る時は四阿で別れるか中央出入口の辺りで別れるかのどちらかである。
私たちの教室へ戻るには、中央出入口を入って直ぐの階段を登って教室まで向かうか、左端出入口を入って直ぐの階段を登って少し戻るかの二択になるのだけれど。
その二択をランダムに変えて帰るのだけれど、どちらに変えても必ずヤツがいる、怖っ。




