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医務室で手当てをしてもらうと、今日は大事をとってゆっくりするよう言われたので、大人しく寮に戻ることに。
一人で戻ろうとする私にマリー様たちが送ると言い出したのだけれど、医務室の先生から、私以外は午後の授業に戻るよう言われてしまった。
当然だと思ったのだけれど、マリー様たちは納得出来なかったようで。
それでも無理やり私を送ろうとする彼らに何とか授業へ戻ってもらうために、ミアを呼んでもらうことにした。
マリー様は心配そうな顔で私の手をギュッと握り、
「お風呂で念入りに洗って、仔猫ちゃん男の消毒して、ゆっくり休んで下さいましね」
念を押して授業へと戻って行った。
その後ろでマシュー様たちが苦笑していたのは見なかったことにしよう、うん。
攻略キャラなのに、もはやバイ菌扱い……。
残念すぎる。
因みに、言われた通り寮に戻ってお風呂で念入りに洗いましたよ?
出来るだけ攻略キャラには近付かないと思っていたけれど、ここに来て二人の攻略キャラと出会ってしまった(ライアン殿下は除く)。
しかも片方にはプロポーズまでされてるし。
もう、本当にわけがわからない。
これは私がちゃんと『悪役令嬢』を演じないための弊害なの?
次の日の話題はやはり、
「『仔猫ちゃん』なんてアビゲイル様の事をお呼びするんですもの、鳥肌ものですわ」
となるわけで。
マリー様、その何気に特徴をとらえたモノマネはやめよう?
ミランダ様たちが苦笑いしてるから。
それまで大人しくしていたノア様が、何か思いついたように少し黒い笑みを浮かべ、いきなり私の耳元で囁いた。
「仔猫ちゃん」
マリー様のモノマネの更にモノマネをしたらしい。
モノマネはいいけど、なぜ耳元で囁いた!?
私はまた椅子から転げ落ちそうになり、ノア様をギッと睨みつけた。
「ノア様っ! もう、耳元で囁くのは禁止ですっ!!」
ノア様はとても楽しそうにお腹を抱えて笑っているが、さっきの全然似てないからね?
「ノア様、そこは『仔猫ちゃん、結婚しよう』ではないんですね」
マリー様も、余計なことは言わなくていいから!
そして気が付けば、四阿でのランチにノア様がいるのが当たり前の状態になっていた。
四阿は中庭より少し外れた所にあり、近くに人が来ることは殆どない。
とはいえ、全くいないわけではないのだけれど。
周りに隠れる場所などはなく、よほど近くにいない限り小声で話せば見られることはあっても聞かれることはない。
実は秘密の話にはもってこいな場所だったりするのだ。
ノア様は私たちの知らない異国の話や珍しいものの話などしてくれるので、楽しいことは楽しいのだけれど。
やはり前の女子会の方が楽しかったなぁ……と思ってしまうわけですよ。
誰と誰が付き合い出しただの、あの人は他にもちょっかいを出している女性がいるだの。
くだらないと言われてしまえばそれまでだけど、色恋話は女子のビタミン剤なのだ(多分)。
ノア様の前だと、あまりそういう話は出来ないので……。
内緒話も出来ないしね。
はぁ、早く諦めてくれないかなぁ。
ノア様は王太子という身分だけでなく、大変優れた容姿を持っている。
どこの国の王女様でも喜んでお嫁に来てくれると思うよ?
だからもう、私のことは諦めてさっさと次行こ、ね?
……まぁ、これらの本音は口には出せないのだけれど。




