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多分私の台詞は通じてはいないだろう。
この人のルートでは確か、本当に信じて欲しい時に信じてもらえず、苦悩するシーンがあったはずだ。
私の言ったことが今は理解出来なくても、後にたっぷりと苦悩するがいい。
その時には「だから言いましたのに」って、残念そうな眼差しで言ってやるんだから!
上半身をこちらに向け、ポカ~ンとしている子猫ちゃん男こと女誑しな先輩はそのまま放置した。
当初職員室へ行く予定が、なんやかんやと時間がなくなってしまい……。
ミランダ様たちはしきりに私の怪我を心配されて、
「これくらいであれば、寮に戻ってからミアに手当てしてもらいますわ」
と言いくるめようとしたのだけれど、かなわず。
マリー様の、
「お兄様方、よろしくお願いしますね」
という一言で、ツインズとマリー様に医務室へ連れて行かれることとなった。
無理矢理にでも連れて行かないと「大丈夫」だと無理して行かないだろうから、と。
まあ、否定はしません。
ミランダ様とミレーヌ様には先に教室へ移動してもらい、先生への説明をお願いした。
全員でゾロゾロと医務室へ向かう必要はないし、ね?
「アビゲイル様、大丈夫ですか? 一体何があったのですか?」
歩きながらマシュー様たちが心配そうな顔で聞いてきたので、先ほどの話を簡単にまとめて説明する。
「出会い頭にぶつかって倒れてしまい、その時に左腕を少しだけ痛めてしまいましたの。それであの方が、いきなりあんな風に私を抱き上げられて……。何度も下ろしてくださるようお願いしたのですが、聞いてくださらずに困っておりましたの。お二人が通り掛かってくださって、本当に助かりましたわ」
マリー様はウンウンと大きく頷きながら、
「それにしても『仔猫ちゃん』って、あの方頭沸いてますの?」
『仔猫ちゃん』部分をモノマネしながら、しかもそれが結構特徴をとらえていて、我慢できずに吹き出してしまった。
「あいつはいつもあんな感じだぞ」
ルーク様がしれっと言うものだから「ルーク様のお友達ですか?」と聞いたところ、なぜか二人揃ってとても嫌そうな顔をして。
「「ただのクラスメイトです」」
だそうで。
確かに「仔猫ちゃん」なんていう友達なんて嫌だわ……。
「仔猫ちゃんなんて言われて喜ぶ女性なんておりますの?」
マリー様の質問に、ルーク様は興味なさそうに答える。
「あんなんでも顔と出自は良いからな。擦り寄る女性が結構いるんだよ」




