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視線を感じてそちらに目を向ければ、こちらを凝視している人たちがいる。
廊下には若干とはいえ、人通りがないわけではない。
つまり、誰かに見られているのだ。
こんなことをされては、面白おかしく噂の的になってしまう。
ただでさえノア様とのことが噂になり始めている中で、余計な噂を増やすわけにはいかないのに!
破滅ルートを回避出来なくなったら、どうしてくれるのよっ!?
とにかく早く降ろしてもらわなければ。
「お願いですから、早く私を降ろして下さいませ。痛めたのは腕ですから、自分の足で歩けます!」
先ほどから何度もそう言っているのにこの先輩は、
「大人しくしておいで、仔猫ちゃん」
と言って、人の話を全く聞いていない。
何度降ろすようにお願いしても、馬鹿の一つ覚えよろしく「仔猫ちゃん」ときたもんだ。
ミランダ様たちも必死に私を下ろすよう言ってはくれているのだが、この男。
全く聞く耳を持たない。
そろそろ我慢の限界に達しようとしたその時ーー。
「アビゲイル様?」
名前を呼ばれ声のする方へと顔を向ければ、そこには不思議そうな顔をした、マリー様の双子のお兄様であるルーク様とマシュー様の姿が。
二人とも、ちょうど良い所へっ!!
「ルーク様、マシュー様。お二人からも私を降ろしてくださるように、この方に仰って下さいませっ!」
そりゃあもう、必死でしたよ。
この機を逃したらきっと、目的地(不明)に着くまでお姫様抱っこが終わらないでしょうから。
ずっと「仔猫ちゃん」なんて寒過ぎる台詞を聞かされ続けるのもシンドイし。
「なぜアビゲイル様がこのような状態にあるのか分かりませんが、僕たちが責任を持って彼女をお送り致しますので、降ろして下さいますね?」
状況は分からずとも、マシュー様たちはニッコリ笑顔で助け船を出してくれた。
若干笑顔が黒い気がするけれど、今はそんなことを気にしてはいられない。
とはいえ、ここまで言われてはもう私を下ろすしかないでしょう?
ほら、さっさと私を下ろしなさいよ!
女誑しな「仔猫ちゃん」連発男は、全然残念そうじゃない和かな笑顔を浮かべた。
「仔猫ちゃん、残念だけど今日の僕の出番はここまでのようだよ?」
……ようやくお姫様抱っこから解放された。
ああ、地に足がつくって素晴らしい!
それにしてもこの男、いちいち言ってることが痛いわ。
私が睨むようにして彼を見ていると、
「じゃあ、また会おう」
と言って片手を上げて去ろうとした。
そんな彼の背中に向けて、謝罪だけはキッチリしておきたかったので、呼び止めて頭を下げる。
「先ほどぶつかりましたのは私の前方不注意でもありましたので、あなただけのせいではありませんわ。私も大変失礼致しました。ですが、先ほどのような勝手な行為は是非おやめくださいませ。……信じて欲しい時に信じてもらえなくなりましてよ?」
同時に若干嫌味も忘れずに。
いい加減イラッとしていたので、これくらいの嫌味なら可愛いものよね?




