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本日もノア様からのご挨拶をスルーしながら、四阿にてランチを満喫中の私たち。
小ぶりなサンドイッチなどの軽食だけでは、まだ成長中らしいノア様にはやはり足りないらしく、最近はテーブルに唐揚げやパスタなども乗るように。
ノア様には申し訳ないけれど、プロポーズのお断りにライアン殿下との婚約が初めて役に立っているという事実!
それにしても、ノア様ってこんな性格してたっけ……?
もう少し真面目な性格だったように思うのだけれど。
これじゃどちらかというと、チャラい女誑しな先輩寄りじゃあ……ま、関係ないか。
楽しいランチを終え、別学年のノア様と分かれ、教室に戻る前に。
私用で職員室に寄らなければならない私にマリー様たちが付き合ってくれて、そちらに向かっている途中。
楽しく話しながら歩いていたせいか、廊下の曲がり角から出て来る人に気付くのに遅れ、思いきりぶつかってしまったのだ。
柚月の時と違い華奢な体をしているアビゲイルは、「きゃっ」と小さな声を上げて倒れ込んでしまった。
皆が慌てて「アビゲイル様、大丈夫ですか?」と声をかけようとするのと被せるように、
「すまない! 前をよく見ていなかったのでぶつかってしまった。大丈夫かい? 仔猫ちゃん?」
という、とにかく寒い台詞を耳にし、私を含め皆が固まる。
ぶつかった男性は、慌てて私を助け起こそうと手を差し出してきた。
持ち前のスルースキルを発揮し、先程の寒すぎる台詞をなかったことにし、左手を差し出された手に乗せようとしたのだけれど。
左側を下にするように倒れ込んだために、どうやら左腕を少し痛めてしまったようだった。
彼の手に乗せる前に痛みで一瞬顔を顰めてしまい、動きが止まったことで、どうやら私が左腕を痛めたことに相手が気付いたようだ。
「僕のせいで、こんなに可愛い君に傷を付けてしまったなんて。すまない、仔猫ちゃん」
申し訳なさそうにそう言うと、彼は突然アビゲイルを抱き上げてお姫様抱っこの状態で、どこかへ向かって歩き出した。
ここで皆が、先ほどの寒い台詞から復活したようだ。
「ちょっとお待ちになって。アビゲイル様をどこへ連れて行くおつもり?」
慌てて追いかけて来る。
この『仔猫ちゃん』な台詞と、目に少しかかる長めの茶髪(少しタレ目)は正に、先ほど記憶の隅にチラッと出て来た攻略キャラの一人、チャラい女誑しな先輩じゃない!! 噂をすれば何とやら、ね。
……じゃなくて、お願いだから降ろして!
こんなお姫様抱っこなんて難易度高いことされて、私のメンタルはもう瀕死だからぁぁぁぁ!!




