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「ライアン殿下との婚約解消は何とかなるかもしれません。ただそうなりますと、婚約者もいなくなり障害はなくなったと、ノア様が喜んで出張ってこられますわね、きっと。正直なところ、そちらの方が厄介ですわ。ノア様はライアン殿下と違って、話が通じなかったり無理強いをするような方ではないと思いますが、納得のいく理由がなければお断りをするのは難しいでしょう。しかも、この話が国の重鎮たちの耳に入れば、トラヴィス国との結びつき強化として利用されかねませんし……」
ミランダ様が難しい顔をしている。
「アビゲイル様に好きな方がおられたりするのならば、ノア様も諦めて下さるかもしれませんが……」
ミレーヌ様の言葉に、思わず顔を赤く染めてしまった私。
だって『好きな方』と聞いて、思わずサミュエル様が頭に浮かんでしまったのだ。
そんな私を見てマリー様が呟いた。
「近衛騎士団長サミュエル様……」
私は思わず目が飛び出すんじゃないかってくらい見開いて驚く。
私、まだなにも言ってないのに、何で分かったの?
吃驚して固まる私を置いて、ミランダ様とミレーヌ様がマリー様にもの凄い勢いで詰め寄っている。
「「近衛騎士団長様がどうかいたしましたの?」」
「アビゲイル様に自覚があるかは分かりませんが、サミュエル様を見る目が乙女ですわね」
マリー様がニヤリと笑ってこちらを見てくる。
乙女って、や~め~て〜、恥ずかしいじゃないっ!
私どんな顔してたの……。
脳内で激しく身悶えていると、ミランダ様とミレーヌ様がグリンと顔を私の方へ向け、とっても眩しい笑顔で呼ばれる。
「「アビゲイル様?」」
……その後ろには『さっさと説明しなさいよ』と続いてますね? 分かりたくないけど分かります。
二人の笑顔が怖いです。
トラウマになるからやめて。
仕方なく正直にこたえましたよ、はい。
「サミュエル様はとても素晴らしいお方ですわ。私は彼を尊敬し、憧れておりますの。好きかどうかと言われましたら、好きですわ。ですが、それが『恋愛』としての好きかと言われましたら、私にはよく分かりませんの」
だって、前世からリアルな恋愛をしたことないしっ!
妖精候補だしっ!




