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翌日。
私の目の前には眩しいほどの笑顔を浮かべるノア王太子殿下がいる。
「やあ、アビー。君はいつもここでお昼を食べているのかい?」
ミランダ様やミレーヌ様、マリー様が一斉に驚いた顔をこちらに向けた。
いやいや、ちょっと待って? 一番吃驚しているのは私だから!
ノア王太子殿下なぜここに居るのかもだけど、いきなり愛称呼びって、何?
昨日は確かにお世話になったし助かったけれど、いつの間にそんなに仲良くなったというのだろう?
「私も混ぜてもらって構わないだろうか?」
それ、質問だけど質問じゃないよね?
隣国の王太子殿下相手に断れるわけないじゃん。
私が呆然としている間に「ノア王太子殿下、どうぞ」と、ミランダ様たちが座る位置をずらして、私の隣の席を空けた。
満足げに頷くと「ありがとう」と言って、腰を下ろす。
いつもと違ったこの四阿に、なかなかテーブルの上の軽食に手が伸びない。それもそのはず。
まさか隣国の王太子殿下と昼食をご一緒するハメになるなんて、誰が想像しただろうか?
会話らしい会話もなく、王太子殿下の動向を探る……いや、見守る。
この妙な雰囲気の中でも、当の本人は動じることなく優雅にお茶を楽しんでいる。
この人、本当に何しに来たの?
皆の顔に『困惑』の二文字が浮かび上がっているのが見て取れるが、私にもどうにも出来ません、ごめんなさい。
満足したのかカップをテーブルへ戻し、そして真剣な顔つきで私の方へ向き直ると、ノア王太子殿下はいきなり私の両手をとった。
「ねえ、アビー? ライアンとの婚約を解消して、私と結婚してくれないかい?」
……はい?
何か今凄い台詞を聞いた気がする。
私の耳はおかしくなったのかな?
ノア王太子殿下は、思わず固まったままでいる私の耳元に顔を寄せて再度囁いた。
「アビー、私と結婚してくれないか?」
思わず反射的に王太子殿下の手を振り解いて耳を塞ごうとして、バランスを崩し、椅子から転げ落ちそうになった。
それをノア王太子殿下が抱き寄せる形で助けたために、今彼の体と私の体がありえない程に密着している。
前世でも今世でも、こんなに男性と密着したことなどない私。
……どうせ柚月は年齢=彼氏いない歴よ!
オジサマ好きで、同年代などには全く興味ナシだけど。
それとこれとは違うというか、何というか……。
つまり何が言いたいかというと、リアルな子供とお年寄り以外との『触れ合い』は恥ずかしいし、緊張するのよ!!
柚月の中学の卒業文集では、『三十歳まで(Hナシを)貫き通して妖精又は魔法使いにクラスチェンジしそうな人』ぶっちぎりの一位だったわよ!
侯爵令嬢として転生してからは、そういった機会は全くなかったし。
唯一そういった機会があってもおかしくない存在の婚約者からは放置されてたし?
……どうでもいいけれど、前世と今世でpure☆を貫き通したら、大妖精にでもなるんですかね?




