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とりあえずこの状況をどうしようかと考え始めた時のこと。
「アビゲイル嬢、大丈夫かい?」
野次馬たちをかき分けて現れたのは、攻略キャラその②ノア・トラヴィス王太子殿下だった。
まあ、留学中の今はこの学園の生徒なわけで、基本全員参加のパーティーに参加しているのは当然なんだろうけれど。
初めに声を掛けたのがシャルロットではなく、一度教室まで送ってもらっただけの私であることに、正直戸惑った。
出来ればあまり大事にしたくはないけれど、これだけの野次馬たちに囲まれている今となっては、それも無理な話だ。
ゲームのシナリオからどんどん遠ざかっているように思いつつも、基本的な事柄(攻略キャラやイベント、彼らがヒロインに惹かれるなど)は変わらないだろうと考えていたけれど。
予想外な展開に頭がついて行けず、つい「ノア王太子殿下、御機嫌よう」なんて明後日な挨拶の言葉を口にしてしまったのだが、王太子殿下は一瞬吃驚したような表情をしてからクスッと小さく笑い、「ああ、御機嫌よう」と言いながら私のドレスを見て、手を差し伸べた。
「着替えが必要なようだね。寮まで送ろう」
それを呆然と見つめる私とその他大勢。
もちろん、その他大勢にはライアン殿下とシャルロットも含まれている。
なかなか手を取らない私にノア王太子殿下は怒るわけでもなく、そのまま私の手を握るとゆっくり寮に向かって歩き出した。
そこでハッとしたライアン王子が慌てて叫んだ。
「ま、待て。まだ話は済んでいないっ!」
ノア王太子殿下は立ち止まってゆっくりと振り返り、
「誰がどう見たところで、そちらの彼女がアビゲイル嬢にワインを掛けた加害者で、アビゲイル嬢は被害者だと判ること。あまり大事にしない方が良いのは、そちら側ではないのかな?」
と。その言葉にライアン殿下は反論出来ず、悔しそうな表情を浮かべるのみ。
これまで彼の第二王子という立場に、苦言を呈し忠告をしてくれるような人が、彼の周りには居なかった。
そのため好き放題してきたわけだが、今回の相手は隣国トラヴィスの王太子殿下だ。
国土の広さは我が国と同じくらいだが、国力はトラヴィス国の方が上であるし、立場も王子と王太子殿下ではノア王太子殿下の方が上である。
さすがにライアン殿下もこれ以上何か言うのは不味いと理解しているらしい。
ノア王太子殿下は私を見てニッコリと笑顔を見せると、
「じゃあ行こうか」
と言って、ゆっくりと歩き出した。




