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気が付けば私たちを中心に、興味津々に瞳をキラキラさせながら様子を伺う者たちで囲まれていた。
これはとっても面倒なことになりそうな予感。
そう、ライアン殿下とか、ライアン殿下とか、ライアン殿下とか。
……全部ライアン殿下じゃないかというツッコミは置いておいて。
召喚される前に、サッサとここからドロンしなきゃ!
舌打ちしたい気持ちを隠しつつ、誰にも気付かれないように溜息を小さく一つついた。
「気になさらないで下さいね。ワザとではないのでしょう? でしたら顔をお上げください」
出来るだけ柔らかいトーンで微笑みながらそう言うと、シャルロットは吃驚したようにお辞儀した状態から顔だけを上げた。
いや、その状態変だから。
確かに顔を上げてくださいとは言ったよ?
けど、本当に顔だけ上げるとか、何なの?
そんなに私を笑わせたいの?
周りからはクスクスと笑う声が聞こえる。
どうでもいいけど、私は早くここから離れたいの!
いつまでもここにいたら、本当に面倒なのが召喚されちゃうじゃない!!
「何をしているんだっ!」
ほら出たあぁぁぁぁぁぁあああ!
脳内お花畑なライアン殿下は、頭を下げつつ顔だけ上げるというシャルロットの姿を見て、そしてその前に立つ私を見ると、いきなり怒りの形相で怒鳴りつけた。
「アビゲイル、貴様シャルロットに何をしたっ!」
それによって周りはシンとし、楽団の奏でる音楽だけが流れるという異様な空間と化してしまったのだが。
何をしたっていうか、私、された側だよね?
「私は何もしておりませんわ」
「何もせずにシャルロットがこんな状態になるわけがないだろうっ!」
いや、寧ろ彼女が何かしたからそうなったと何故思わん?
ライアン殿下と面と向かって話したのは半年ぶりだな〜なんて、ちょっと違うことを考えてしまうくらい、この状況に呆れ果てていた私。
しかも頭の中で勝手に『ライアン殿下』を『こいつ』に脳内変換されるようになっちゃったけど、言葉にしなければいいよね?
学園に入学してから、こいつには迷惑しか掛けられてないし。
私がシャルロットに危害を加えていないという事実は、これだけの人目があるから証明することは簡単だ。
シャルロットに謝罪を求めたわけでなく、寧ろ私の「ワザとでないなら頭を上げて」といった言葉も、これだけの人たちが耳にしている。
少なくともこの件で私を断罪することなど出来ないと安堵し、心の中で盛大な溜息をついた。
その間ライアン殿下は何やら言っていたようだったけれど、くだらな過ぎて右から左で何を言われていたか全く覚えていない。




