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派手な容姿のコスプレ女子は、ベッドの縁に腰掛ける私を見て驚いたようだ。
「アビゲイルお嬢様!? 起きていらっしゃったのですか?」
アビゲイルお嬢様って、私のこと、よね?
あらやだ、私ったらこんっっなに超絶美少女で、しかもお嬢様なの? よっしゃぁぁああ、人生勝ち組じゃな~い♪
顔には出さずに心の中で小躍りしていた私の口から勝手に、
「ええ、ミア。何だかよく眠れなかったの」
という台詞が出てきたことに少し驚いた。
そうだ、彼女は私付き侍女のミアだ。
コスプレなんて思って、ゴメン。
少しずつだけど記憶が戻ってきた。
……というか、どちらかといえば浮かんでくる感じっていう方が近いかな?
現在の私はアビゲイル・クラーク 十五歳(もうすぐ十六歳)。
クラーク侯爵家の箱入り娘。
ちなみに長女である。
歳の離れた弟が一人いて、目に入れても痛くないほど可愛くて、猫可愛がりしている。
「本日より学園へ通われるので、緊張されてしまわれたのかしら?」
言いながらも、ミアはテキパキと動いている。
彼女は本当に仕事の出来る子なのよね。
年上だから、『子』って言い方はおかしいか。
とにかく物怖じせず、私にも間違ったことは間違ってると意見出来る、数少ない貴重な人材なのだ。
「お嬢様、いつまでもボケッとそんな所に座ってないで、準備して下さい。入学式に間に合わなくなりますよ」
お、おう。
こういう時に何か言おうものなら三倍返しで返ってくるので、黙って準備をするために洗面台へと向かう。
めっちゃ広いんですけどっ!
洗面台は横に三人並んでもゆったりと使用出来るほどで、その背後には真っ白で可愛い金色の猫脚のバスタブ(足伸ばしても余裕で浸かれるくらいの大きさ)がある。
部屋の広さは八畳分くらいはあるんではなかろうか。
「柚月の部屋より大きいバスルームって……」
うん、考えるのはよそう。
悲しくなってくる。
顔を洗って歯磨きして、目の前の鏡の中の自分を改めて見てみる。
「今更ながら、この顔どっかで見たような……。それにアビゲイルって……」
う~ん、何か思い出せそうな思い出せなさそうな……。
こういうのって、何かもやもやして気持ちが悪い。
さっさと思い出してスッキリしたいところだけど。
「お嬢様、いつまで顔洗ってるんですか。入学式に間に合わなくなると言ってるじゃないですか」
いつまでもバスルームから出て来ない私に、呆れたようにミアが呼びにきた。
「御婚約者のライアン殿下に、みっともない姿をお見せすることになりますよ」