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文化交流会前日。
ランチを終えていつもの四阿から教室に戻る途中、ミランダ様達と別れて御手洗に向かっていると、急に立ち眩みが。
「おっと、大丈夫かい?」
バランスを崩して倒れそうになったところを、誰かに支えてもらったお陰で倒れずに済んだようだ。
危なかった……。
「申し訳ございません。少し目眩がしまして、フラついてしまいましたの。助けて頂きまして、ありがとうございます」
助けてくれた人に丁寧にお礼を言って顔を見ると、うん?
この人どっかで見たことあるような……?
「いや、怪我がなくて何よりだよ。それよりまたフラついては大変だから、私が教室まで送ろう」
爽やかな笑顔で言ってくるが、私は教室へ行く前にどうしても行かねばならない場所があるんですっ!
「お気遣いありがとうございます。ですが、もう大丈夫ですわ」
これでもかと言うほどに盛りに盛った笑顔でやんわりとお断りした。
お断りし・た・の・にっ!
「うん、私が心配だから、是非送らせて欲しい」
更に笑顔を上乗せして言われてしまった。
助けてもらった人にここまで言わせてお断りなんて……。
ましてや「お手洗いに行きたい」なんて異性の前で、恥ずかしくて言えない!
「……ありがとう、ございます」
若干引きつった笑顔でそう言う自分がいた。
イヤと言えない日本人だった自分が恨めしい。
「私は二年Sクラスのノア・トラヴィス。君の名前を伺っても?」
「アビゲイル・クラークと申します。一年Sクラスですわ」
自己紹介をしつつ、うん?
ノア・トラヴィス?
トラヴィス、って隣国の名前だよね?
……げっ! 隣国から留学してるノア王太子殿下っ!?
サラサラの胸の辺りまである金髪を後ろで一つに結び、中性的な美しい顔立ちに、一見線が細く見えながらも実は制服の中は(鍛えられた肉体美が)凄いんです☆っていう、私の(一応まだ)婚約者に負けない程の人気がある攻略キャラ様ではないですかっ!!
……攻略キャラには出来るだけ関わりたくないんだけど。
フラついた所を助けられたせいなのかもしれないけれど、この王太子殿下。
距離感おかしくない?
めちゃくちゃ密着しとるがな。
焦ってるせいか、どこの方言だか分からない言い回しになっているが、気にしたら負けだ。
なんて考えている間に教室に到着してしまった。
とりあえずノア王太子殿下に丁寧にお礼を述べ、自分の教室にお帰り頂いて、漸くお手洗いへ……行けなかった。
泣く泣く午後の授業を受けていると先生から、
「顔が赤いですが、大丈夫ですか?」
と心配されて。
まさか「トイレ我慢してます」とも言えず。
そんな私の様子に先生が無理をしていると勘違い(あながち勘違いではないかも?)され、侍女を呼び出し、寮で休むようにと帰されてしまった。
寮の部屋に戻った途端、マッハな速さでお手洗いに駆け込んだ私。
そしてそんな私を見るミアの目が冷たい……。
お願い、そんな目で私を見ないで!




