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「むさ苦しいだなんて……。皆様(主にサミュエル様)の真剣な姿に魅入っておりましたが……、あの、頭を撫でて頂くのは嬉しい……じゃなくてですね、子供扱いは……」
あわあわする私にサミュエル様は豪快に笑いながら、
「いやぁ、済まないね。つい可愛らしくてな」
なんて。子供扱いなのは分かっているけれど、目の前の彼の口から「可愛らしい」等という言葉を聞き、顔に熱が集中する。
思わず頬に手を当てた時、差し入れ用のバスケットを肘に掛けていたことを思い出した。
「あのっ、差し入れをお待ちしましたので、よろしければ皆様でお召し上がりください」
バスケットごとサミュエル様に渡すと、少し驚いたような顔をされた。
「これはもしかして、君が作ってくれたのかな?」
「はいっ。味はミアの……私の侍女のお墨付きですわ!」
サミュエル様はバスケットからクッキーを一つ取り出すと、パクッと口の中に入れてモグモグしている。
「うん、美味いな」
笑顔でそんな風に言われたら……。
思わず顔がにやけるのを必死で耐える私。
「ありがとう。後で皆で頂くとするよ」
そう言ってまた頭を撫で撫でされる。
前世の時、握手会に行った友達が「このまま手を洗いたくない」と言っているのを聞いて、「いや、洗えよ」とツッコんだものだけど。
ごめん、今ならその気持ちが分かる。
このまま頭を洗いたくない。
……洗うけどね?
サミュエル様から「またいつでもおいで」と言ってもらえて、帰りの馬車の中でも笑みが止まらない私。
その私の前に座っているマリー様は、そんな私の様子に苦笑している模様。
最初は頑張って顔を戻そうとしてはいたのよ?
でもすぐに無理だと分かって、早々に諦めたのだ。
だって、あのサミュエル様に会えただけじゃなくて、言葉を交わして頭まで撫で撫でされたのよ?
馬車の中を転げ回らないだけでも褒めてもらいたいくらいなのに!
いつでもおいでなんて、許されるなら毎日でも通いたいわ!!
……て、そうだ。『いつでも』とは言われたけれど、どれくらいの頻度ならば邪魔にならないかな?
「マリー様、次はいつ差入れに伺う予定ですの?」
とりあえず、目の前の彼女と同じくらいの頻度であれば、大丈夫よね。
もし嫌でなければ、次も一緒に行ってもらえると心強いし。
「そうですね、月に一~二回程度訪問しておりますので、次は来月の頭頃になると思います」
「あの、またご一緒してもよろしいかしら?」
マリー様はとても可愛らしい笑顔を浮かべられ「もちろんですわ」と。
次回の差し入れは、何を作ろうかな?
 




