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「仲が良くて、羨ましいですわ」
「ええ、まあ、仲は確かに良いのですけど……」
「?」
言い淀むマリー様に首を傾げて見ていると、小さく息を吐いてマリー様が話し始めた。
「お兄様は女性に対して少し軽いと言いますか、何て言うか……」
ああ、チャラ男なのね。
言い難いことを言わせてしまってごめんなさい、心の中で謝罪する。
でも私のカンだと、彼はクズではないと思うのよね。
「本気で想う方がまだ居られないだけで、見つけられたらきっと一途になられるのでは?」
「……そうでしょうか?」
「もし治らないようであれば、その時はお相手の方に確りと躾けて頂けばよろしいかと」
……どのような躾け方かは知りませんがね?
何となく私の言いたいことが分かったようで、マリー様が楽しそうに笑う。
「そうですね。躾けの方法については、ぜひお相手の方と一緒に考えたいと思いますわ」
そうこうしている内に、サミュエル様が休憩に入られるようだ。
「あまり長居するのも良くありませんので、団長様にご挨拶してお暇しましょう」
マリー様に言われ、本心はもう少しサミュエル様の姿を見ていたかったけれど、同意の意味を込めて頷いた。
……ついにサミュエル様とご対面の時が来たぁぁぁああ!!
先程まで落ち着いていたはずの心臓が、再度早鐘を打ち始める。
大きく深呼吸して、マリー様の後に続く。
タオルで汗を拭いながら、騎士に手渡された水を勢いよく飲み干したサミュエル様がマリー様に気付いた。
「君は確か、ローガンの妹の……」
「マリーでございます。見学させて頂いておりました」
「そうか。いつも差し入れをありがとう」
そしてマリー様の斜め後ろにいた私に目線を移す。
「君は……」
私が誰であるか、思い出そうとしているようだ。
初めましてですけどね?
……ああ、本物のサミュエル様だぁ。こんっなに間近でお会い出来るなんて。
しっかりと挨拶をして、名前を覚えて頂かなくては!
落ち着いて、落ち着いて。
胸に手を当てて、一つ深呼吸して。
「お初にお目に掛かります。アビゲイル・クラークと申しましゅっ」
噛んだっ! それも盛大に!!
ああ、もう。どうして? こんな大事な時に……。
あまりの不甲斐なさに涙が込み上げてくる。
恥ずかしさとこんな情けない顔をした自分を見られたくなくて、真っ赤になって俯く私。
不意に頭の上に大きなゴツゴツとした手が置かれ、優しく撫でられた。
「初めまして、お嬢さん。近衛騎士団長のサミュエル・トレスです。むさ苦しい所だが、楽しんで頂けただろうか?」
嗚呼、やはりサミュエル様は素敵な白馬のオジサマだわ!




