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俄かに入口の辺りが騒がしくなり、そちらに目を向けると。
そこにはなんと、私が恋い焦がれたお方、近衛騎士団長であるサミュエル・トレス様のお姿がっ!!
嗚呼、どうしよう? 手の震えが止まらない。
サミュエル様の姿を瞳に捉えた瞬間より心臓が早鐘を打ち、緊張が一気に高まり、そしてサミュエル様から一瞬たりとも目が離せない。
入口の所で騎士と話を……あ! 今笑った!?
笑うと年齢より少し若く見える。
生サミュエル様は、あんな風に笑うんだ……。
柚月の時は、ゲームの中でしかサミュエル様の姿を見ることは出来なかった。
しかもメインキャラじゃないから、その姿も本当に少しだけ……。
でも今、私の瞳に映るのは、意思のあるリアルな一人の男性で。
どうしよう……。もっと近くで貴方を見てみたい。
もっともっと色々な表情を見せて欲しい。
一目見るだけでいいと思っていたはずなのに。
サミュエル様は訓練場の中に入ると、早速騎士たちの指導を始めた。
一人一人の動きを観察し、どこが良くてどこが悪かったのか、時に厳しく、そして的確に。
「騎士の皆様、とても嬉しそうですわね」
マリー様が呟くと、視線は前に向けたままローガン様が、
「俺も含めて、皆団長を尊敬し憧れてるからな。そんな人から直接指導してもらえるんだ。そりゃ嬉しいさ」
そう言いながら、騎士たちを羨ましそうな目で見ていた。
きっと参加したいんだろう。
だから、思い切って聞いてみた。
「ローガン様、訓練に戻られますか?」
「え?」
「ローガン様のお顔に、自分も指導してもらいたいと書いてありますわ」
ローガン様は恥ずかしかったのか、思わず頬をかきながら目線を彷徨わせる。
「参ったな、そんなに分かり易かったかい?」
「ええ、とっても。うふふ」
大きな身体だけれど、その姿はとても可愛らしいと思う。
とはいえ、私が好きなのはオジサマなので、恋愛的要素は全くないけれど。
ローガン様はバツの悪そうな顔をして、
「降参。悪い、訓練に戻るわ。マリー、気を付けて帰れよ。アビゲイル嬢、また遊びに来て下さい。では」
と、凄い勢いで訓練に参加しに行った。
そんなローガン様の背中をマリー様は呆れるように見送りながら、
「お兄様ったら、もう。アビゲイル様、申し訳ありません」
と頭を下げた。
「そんな、頭を上げて下さい。マリー様が謝罪されるようなことは何もありません。忙しいところを無理言って案内して頂いて、謝罪しなければならないのは私の方ですわ」
「いえ、お兄様のことなら全く気にしないで大丈夫ですわ。いくらでもこき使ってやって下さい」
真面目な顔でそんな風に言うマリー様に、つい笑ってしまうのだった。




