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現在、学園寮のロビーにてマリー様と待ち合わせ中である。
いよいよ今日、近衛騎士団の宿舎へ向かうマリー様に同行させて頂くのだ。
あの後、マリー様から快く了承の返事を頂いた。
それから今日まで、私の浮かれまくって突然鼻歌を歌って踊り出したりする姿に、無表情のミアの視線が痛かったりしたけれど。
(もちろん寮内の部屋の中だけである)
服装はなるべく動き易く、尚且つスタイルが良く見えてお上品なものをミアに選んでもらい(こっちの世界のお洒落なんてものは、私にはよく分からない)、髪もスッキリと見えるようにアップにしてもらった。
……きっと今頃ミアは部屋で力尽きていることだろう。
一応私が戻るまで、ゆっくり休んでおくように声掛けはしてある。
ミアには本当に感謝しているので、今度お父様に会った時にお給料アップのお願いをしておこう。
待ちきれなくて、約束の時間の一時間前からロビーで待機中だ。
ロビーのソファーは部屋のソファーよりかなり劣る素材のようで、若干座り心地が悪いように感じる。
画面の中でなくリアルに生きて、動いて、色々な表情をされる生サミュエル様を目にする(かもしれない)日が来るなど、正直思ってもみなかった。
もう心臓が、口から鼻から耳から、ありとあらゆる穴から出て来そうな勢いで早鐘を打っている。
「今からこんなで、生サミュエル様を前にしたら、私はどうなってしまうのかしら……」
失神とかして半目の醜い顔を見られたりとかしたら、恥ずかし過ぎて死んでしまう。
とにかく、サミュエル様の前で情けない自分を見せることだけはないよう、気を付けなければ。
……食べて頂けるかは分からないが、差入れのクッキーを焼いてきた。
ちゃんと渡せるだろうか?
「アビゲイル様、お待たせして申し訳ありません」
慌てるようにして、でも優雅にマリー様が現れた。
約束の時間の十分前であり、謝る必要など全くないのだが。
「いいえ、私が早く着き過ぎてしまっただけですので、お気になさらないでくださいませね」
マリー様は私が抱えているクッキーの入った籠を見て、
「アビゲイル様、その籠はもしかして差入れのお品ですか?」
「ええ。クッキーを焼いてみましたの」
「アビゲイル様が自ら、ですか?」
「はい。お口に合えばよろしいのですが」
「何て勿体ない。私が頂きたいくらいですわ」
社交辞令とは分かっていても、そう言って頂けるのは嬉しい。
「マリー様の分もありますので、よろしかったら後で召し上がってくださいね」




