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「それで、その後はどうなりましたの?」
いつもの四阿にて、マリー様たちが前のめりになって聞いてくる。
昨日私の家であるクラーク侯爵家に、サミュエル様が挨拶にみえることは、皆に話してあった。
私がミアを連れて寮に戻って来たのは昨夜遅くであったために、皆はその結果を聞きたくて朝からウズウズしていたのだ。
色々と聞きたいのは分かるけど、いかんせん圧が凄い。
「サミュエル様の言葉で腰砕けになってしまいまして……。私が落ち着くまで、隣で優しく頭を撫でていてくれましたの。両親も可愛い弟も、サミュエル様を私の婚約者として認めて下さいましたし。私、本当に幸せですわ」
「アビゲイル様がお幸せのようで、本当に私たちも嬉しいですわ」
ミレーヌ様の言葉に、マリー様とミランダ様が笑顔で頷かれた。
「今の私の幸せは、すべて皆様のお陰ですわ。本当に何と御礼を申し上げたら良いのか……。心より感謝申し上げますわ」
心からの感謝を込めて、丁寧に頭を下げた。
本当に、私の力だけでは破滅ルートから脱け出すことは難しかったと思う。
みんなが私に手を差し伸べてくれたから、無傷で破滅ルートを回避出来たし、サミュエル様に自分の気持ちを伝える勇気を持てた。
そして今、恋い焦がれたサミュエル様が、私の婚約者である。
ゲームではアビゲイルに取り巻きはたくさんいたけれど、友人と言える人は一人もいなかった。
アビゲイルが断罪されると、皆一様に手のひらを返すように居なくなったのだ。
マリー様もミランダ様もミレーヌ様も、ゲームには出て来ないただのクラスメート要員だったかもしれない。
でも、彼女たちと仲良くなれたことで、私の人生は大きく変わったのだ。
「皆様は私にとって、命の恩人なようなもの。私は皆様に出会えたことを、神様に感謝しないといけませんね」
「命の恩人だなどと、大袈裟ですわ。ですが、私たちにとってもアビゲイル様は大切な友人ですもの。私たちも貴女に出会えたことを、神様に感謝ですわね」
マリー様がコロコロと可愛らしく笑いながらそう返してくれました。
悪役令嬢に転生したことに気付いた時には目の前が真っ暗になったけれど。
こんな風に幸せを掴むことが出来るなんて、思いもしなかったけれど。
自分が幸せだからなのかな?
ライアン元王子殿下とシャルロットにも、心の底から幸せになってもらいたいと思う。
正直、腹立つことも(かな~り)多かったけれど。
散々迷惑掛けられたけど。
ゲームのように何人もの攻略キャラを侍らすこともなく、シャルロットは最初から彼だけを見つめていたから。
ライアン元王子殿下も彼女だけを見つめ返していたから。
本当に好き合っている二人だから。
心の中で、もう二度と会うことはないと思うけれど、どうかお幸せにと、そっと祈った。
ゲームのシナリオとは全く違うものへと変わってしまったけれど。
……先のことは分からないけれど。
この先の未来が、皆にとって笑顔の絶えない未来であることを。
心から願う、アビゲイルだった。




