少女は蝶々になれたらとただ願うだけ -2
小さな穴の中を覗くルイとそれを見上げる少女。
中は真っ暗で外から中の様子は見えない。
しかし穴の中からの声で、確かにそこに少女が存在する事が分かったルイは会話を始めた。
「誰かいるのか?」
「・・・私に御用でしょうか?」
「用なんて別にないけど」
「?この祭壇に来たって事は身体がどこか悪いんじゃ・・・?」
「いんや、全然。むしろ元気いっぱいだけど」
「え、何故ここに?」
「強い奴を探しにきたんだよ」
ルイは穴の中から見えるように腕を出し力こぶを作った。
しかし穴の中からは逆光でルイが何をしているか見えない。
「強い奴・・・もしかしてお兄様の事でしょうか?」
「ん!?お兄さん強いのか!?」
「強いと思います。この紫苑の森の中心付近のモンスターは全てお兄様が退治していますので」
「どおりで来る途中魔物が少なかった訳だ。で、そのお兄さんはどこにいるんだ?」
「・・・お兄様に会ってどうされるのですか?」
「仲間にする」
「仲間?旅のですか?」
「まあそんな所かな。だから申し訳ないけどお兄さんを連れていっちゃうかもしれない」
「!・・・分かりました。お兄様の居所を教えます」
「よっしゃ!でも良いのか?お兄さんいなくなっちゃうかもだぞ?」
「良いんです。むしろその方が・・・」
「ん?なんて?」
「・・・いや何でもないです。この祭壇から半径100m以内に地下へ続く階段があります。そこを降りればお兄様に会えると思います。ただ」
「ただ?」
「階段の下は50人程の人が住む集落となっていますが、おそらく・・・歓迎されないと思います」
「ふむ~、そういう感じなのね。ま、飴でも配れば何とかなるだろ」
「飴?」
「飴。ん?飴知らないのか?ほれ」
ルイは穴の中へ飴を一つ投げ入れた。
「美味いぞ!お気に入りの味の一つだ!情報サンキュな。じゃあ階段とやらを探してくるわ」
「頑張ってください」
ルイは立ち上がりその場を去ろうとしたがスッとまた穴を覗き込んだ。
「そういやさ!」
「はむむ!?」
「ん?どうかしたのか?」
「はんへもはひまへん!!・・・何かまだ御用でしょうか?」
「何でこんな暗ーいとこにいるんだ?」
「オツトメがあるのです。オツトメがある以上はここから動くことは決して許されない事なのです」
「ふーん、オツトメねぇ」
「はい・・・変でしょうか?」
「変っていうか・・・」
「?」
「お前自身はそれで良い訳?」
「え?」
「だからお前自身はこんな暗い所に居ていつ来るか分からない訪問者をひたすら待ち続けて楽しいの?」
「それは・・・・・・」
少女は黙り込んでしまう。
「俺だったら断固拒否だね。強引にでもその暗い所から抜け出して自由にする。だって自分の人生だろ?オツトメとか関係ないね」
「・・・」
「まあお前の人生だからお前が決める事だし、そんなに口挟んじゃいけないか。そろそろ行くわ!あ、名前教えてくれよ」
「リン・キュアポイントです」
「俺はルイ・クローバーだ。リン、またな。ほれほれ!飴をさらにサービス!」
ルイは去り際に穴の中にまた飴を大量に投げ入れた。
「あわわわ、こんなにも・・・」
リンは落ちてきた飴を全部拾い上げる。
(ルイさんお兄様に会えるかな・・・お兄様も一緒に旅立つことになったのなら・・・私は・・・)
「さてさて・・・これがその階段ってやつね」
ルイは祭壇から離れると草むらの中や岩の影など隅々まで階段を探した。
30分程捜索し、階段を発見した。
「じゃあ入ってみますか」
階段の横の壁にはちゃんと明かりがついており、問題なく降りることができそうだ。
いつ集落の人と会う事になるか分からない為、ルイは警戒しながらゆっくりと降りていく。
下まで着くと大きな広間があった。奥に扉がある。
(あの扉開けるしかないよな・・・)
ゆっくり扉を開けようとする。
すると後ろから階段をタッタッタッと下りてくる音が聞こえてくる。
(住人か!?・・・まあ避けて通れない道だし、いっそ会話持ちかけてみるか)
住人が降りてくるのを待っていると、目の前に背の高い金髪の男があらわれた。
「見ない服装だな。誰だ?」
「ルイ・クローバーだ。宜しく」
「名前など聞いていない」
(誰だ?って聞いてきたじゃんか・・・)
男は背中に背負っている弓を構え始めた。
ルイは一応両手を上げ敵意が無い事をアピールする。
「すまない。この集落の一番偉い人を教えてくれないか?話をしたいんだ」
「・・・長老様に?信用ならんな」
今にも男は弓を放ってしまいそうだ。
(何か良い方法はないかなっと。・・・そうだ!)
「リン。リンという子にここの場所を聞いた」
「リンだと!?あの子がこの場所を言うはずが!・・・まあ良いだろう。着いてこい」
男はルイの横を通り過ぎると扉を開け、奥の方へと案内してくれた。
(へ~広いなあ~)
扉を開けると更に大きい広間があり、洗濯物やら食べ物などが壁に沿ってたくさんあり、ほぼ全員の住人がその広間で生活しているのが見て取れた。
「みな!そこで待機しろ!怪しい男が居たので長老の元へと連れていく!」
(怪しい男って・・・ひどい扱いだ)
広間にいた住人はみなルイの事を邪見にしながらジッとしていた。
「はやく着いてこい」
男はそう言うと広間にあるいくつかある扉の内でも一番大きい扉の方へ歩いていく。
ルイもそれに付いていった。
そして男がその大きな扉を開けると中にはイスに座った老人がいた。
「・・・客かね?」
「はい。長老様。私は扉の外で待機しています。こやつが何かしでかしでもしたらすぐに声をあげてください」
そう告げると男はガシャンと大きな扉を閉めた。