実力
観客席から一人の男の声が大きく響き渡る。
また観客席に静寂が訪れた。
ルイは客席からフィールドまでコツコツとゆっくり歩み寄っていき、塀を乗り越えると銀髪美女の所まで向かった。
「強いね、銀髪美女さん」
「あなた誰よ」
「俺と賭け勝負してくれよ」
「賭け勝負?何故あなたとそんな事しないといけないの」
「自分だって急に割り込んで優勝者さんをボコボコにしちゃったじゃねぇか。俺がこうやって参上するのもあっておかしい事じゃないだろ?」
ルイは会場を囲む壁のあたりを指さした
今だに(故)ブルジョワは壁に突き刺さったままだ。
ときたま「ウボーーー」と壁内から声が聞こえてくる。
「・・・ハァ」
「ん?何?」
「いるのよね、あなたみたいな只の目立ちたがり屋さん。こんな大きな場で恥をかきたくなければ早く帰っておねんねしてなさい」
「おおおおおっとおおおお!!!!!またも乱入で急に現れた青年!帰っておねんねしなさいと言われてしまったーーー!!!既に大恥だーーー!!!」
「「「ハハハハハハハハハハハハ!!」」」
会場に笑いが起きる。
しかし、
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
ルイは会場にいる中で誰よりも笑っていた。
「ハハハハハ!何言ってんだ!」
「・・・何が面白くてあなたは笑っているの?」
「おまえ闘いもせずに勝ち誇っちゃってるんだぞ?もし俺がお前より強かったらどうすんの?負けた後のお前の顔とかを想像しただけで・・・もう・・・笑いが止まんね!」
「・・・」
既に会場はルイの笑い声しか聞こえなかった。
観客席からは小さなひそひそ声しか聞こえてこない。
(もしかしてあいつ強いのか?)
(いやあのお姉ちゃんに勝てる奴いないだろ)
(ホントに只の目立ちたがり屋とか?)
(それとも始まる寸前で逃走するとか?)
「・・・・もういいわ」
そう言うと銀髪美女は開始の合図を待たずに大きく踏み込みルイの元へと走り出した。
物凄いスピードだ。どうやらブルジョワの時の様にいっぱつぶち込む気だ。
「バイバイ、黒髪の青年君」
その直後、パーン!!!という音が会場に響き渡った。
さっきのブルジョワの時とは違う音。
会場の皆がまさか・・・とルイの姿を確認する。
「俺の名前は青年君じゃない。俺の名前はルイ。ルイ・クローバーだ」
ルイは首元に向かって放たれた強烈なキックを片手でとめていた。
どうやら銀髪美女はパンチをすると見せかけてフェイントでキックをおみまいしようとしていたらしい。
5秒ほど無音の時間が流れた。
客席も実況も銀髪美女も驚きを隠せない。
しばらくして現状を理解すると銀髪美女はタッタッタとバク転しながら後ろへ引き下がった。
そしてなんと片膝を地面に着けなんと頭を下げ始めた。まるで主人に仕える兵士の謝り方だ。
「先程の発言を謝るわ。おそらくあなたは強い」
会場がざわついた。
(さっきの見えたか!?)
(いやいや速すぎて見えるわけないだろ!?)
(てかあの男の身体どうなってんだよ!片手でとめれる様な威力のキックじゃなかったぞ!?)
しばらくすると銀髪美女はまた立ち上がり
「そして正式にあなたに勝負を挑みたいわ」
と背中にある大きな槍を取り出し両手で持ち、スッと矛先を右後ろへ向けいつでも踏み込める態勢となった。
「賭け試合成立・・・って事でいいんだね?」
「そういう事よ」
「そうこなくっちゃな!」
「で、あなたは何を賭けてくれるの?」
「俺?何でもいいよ?そっちで決めてくれ」
「・・・じゃあその背中にある二つの剣。なんか高価な感じがするしそれを貰うわ」
「ああ、こんなのでよければ」
「あなたの望むものは?」
「俺か?俺は・・・・・」
ルイは大きく足を開いて両手を腰にそえて胸を張って言い放った。
「お前が欲しい。俺に付いてきてくれよ」
「・・・・・・・・・・・・・えっ?えええええええええ!?」