朧の里 -3
「サクラよ、まだ動けるな?」
「もちろんです!師匠!」
「早めにケリをつけるぞ。何か……何か嫌な予感がするのじゃ」
巨人は変わらずニヤニヤと笑っている。
この笑みがザドの長年の経験上、何かよろしくない事が起きるのを感じ取らせた。
「は~や~く~~!!!はやく来いヨーーーーッッッ!!!」
「言われんでもいくわい!サクラよ、ワシは近距離で攻め、あやつの動きを封じ込む。その間に忍術を放つんじゃ!」
「分かりました」
ザドはそういうと即座に駆け出す。そして、巨人の前で止まると、素手と足技でさまざまな連撃を繰り出した。しかし、巨人は身体が大きいのを感じさせない素早い動きでザドの攻撃を難なく受け流す。
一方サクラは少し離れた場所で両膝を地面につけ両手を前に組み、術を繰り出すのに集中している。
「ザドさんよおおお!!軽いぜ軽いぜェェ!!!」
「ぬかせっ!!」
ザドは連撃の最後に身体を大きく捻らせ、遠心力をうまく利用したするどい回し蹴りを巨人の腹めがけて放った。
「ぐうっっ……」
その蹴りが巨人の良い位置に入り、たまらず巨人が地面に片膝をつく。
(今のは入ったじゃろ。これであいつは暫く立てんはずじゃ。サクラは……まだ掛かりそうじゃな)
サクラは目を閉じ額に汗を掻きながら必死に術を出そうとしている。が、なかなか上手くいかない。
というのもサクラは元々忍術が苦手で、普段から武術や体術を集中的に練習していた。
ザドもそれを知ってはいたが、こういう命の掛かった場面を乗り越えてこそ身になりやすいのを長年の経験から知っており、今それを実行しているのである。
(あの巨人を倒せるような…!破壊力のある術をださなければ……!もっと…!もっと……!)
サクラのまわりの草が次第にざわざわと揺れ始めた。
(良い感じじゃ…。頑張るのじゃ。お前ならきっとこの巨人をも…………)
ザドがサクラの方を見ると、サクラの後ろに不審な影がよぎった。
「いかん!!!サクラ後ろじゃ!!!!」
「え?」
不審な影はスッと人の形となった。同じサーカスの服装をした連中の一人だ。
「目の前の敵だけしか見えない様じゃまだまだだネ…っと!」
新しく参入してきた敵は容赦なくサクラの頭にかかと落としを決める。
サクラは意識を持ってかれそうになるがそれを何とかこらえ敵と距離をとる。
だが今の一撃がなかなか致命傷で、頭から血を流しながら何とか立てている状態だ。
「不意打ちとは…卑怯な!」
「闘いに卑怯も何もないのサ」
サクラは今の攻撃で術を中断されてしまった。
しかし、敵の数が二人になった以上、協力して戦うのは難しいと判断したサクラは新たな敵の方へと意識を集中させる。
ザドはサクラがやられなかった事に安心をしていた。
……が、安心しすぎてしまった。
「ふう…、全く心配させるわい。こっちはワシ一人でなんとかするかの
「おい」
ザドの真後ろには、さっきまで片膝をついていた巨人が立っていた。
「いっただきィィィィィ!!!」
「ふぬっ!?」
「師匠!」
巨人が大きな手でザドの身体全体を掴んだ。
そして何回も何回もザドを地面に叩きつける。
「師匠!!!!!」
「おっと~!君は僕の相手をしてくれないとネ」
サクラの前に後から現れた方の敵が立ちふさがる。
一方巨人はサクラの挙動など全く構わずザドを振り回していた。ザドの顔面は血だらけでかなり致命傷の状態となっていた。
「ぐうっ……」
「もう良いかなァ?サキュール」
「良いんじゃないかナ?頑張ったご褒美だドリアン。もう流石にその爺さんも動けないだロ?」
サキュール、ドリアンと呼ばれた敵たちは不適な笑みを浮かべる。
「師匠を殺す気か!?私が相手になる!!!まとめて二人でかかってこい!!!」
「大丈ブ。殺しはしないヨ。ただ……………」
「ムッフフフーーー!!!はやく!はやくゥゥゥ!!」
サキュールが手首を上へスッとあげ合図を出すとドリアンは大きく口を開いた。
「ドリアンのおやつにはなって貰うけどネ」
「いただきまああああああす!!!!!」
…バクンッ
ザドはドリアンの口の中へと放り込まれた。
モグモグと大きく口を動かした後
ゴクンッ
と大きな音をたて、ドリアンはザドを飲み込んだ。
「そ、そんな……」
「久しぶりの食事は美味しかったかイ?」
「ジジイだったから味はまずかったなあ~。まあ腹ごしらえにはなったな」
ドリアンは大きく膨らんだお腹をポンポンと叩きながら返事をする。
「そ、そんな……!!」
「わがままなヤツだナ。で………どうだ?力の方は?」
「ウオオオオオオオオ!!!!!こいつはヤベーーーーぜぇぇぇぇ!!!!!全身に力が漲るゥゥゥゥゥゥ!!!!」
巨人はどす黒いオーラのを漂わせながら喜んでいる。
サクラはたった今起きた光景に呆気をとられていたが次第に怒りがフツフツと沸き上がる。
「き、貴様ら……師匠を…………」
「目的は果たしたし、これでここは用無しだナ。にしてモ、この里の連中は強かったナ。半数以上やられてしまったカ…。まあ良イ。そろそろ行くゾ?」
「そうだなア~」
「師匠を返せーーーーーッッッ!!!!!」
「じゃま」
巨人が大きな手でサクラをビンタする。
サクラは吹っ飛ばされ、大きな木に打ち付けられる。
「早速だけど、使ってみるかアアア。フヒヒィィ、ホントにでるのかなア?」
そう言うと巨人は胸の前に両手を組んだ。
「火遁 "落火球の術”ゥゥゥ!!!」
すると、サクラの頭上から無数の火の玉が出現した。
そしてその火の玉達は容赦なくサクラに降り注ぐ。
「ぐはっっっ!!!」
「でたでたホントにでたああああ!!!」
「お遊びはもう良イ。いくゾ」
「まってくれよおおお!!!」
サキュールとドリアンは落火球の術をモロにくらい倒れているサクラを相手にもせず立ち去ろうとする。
「そ、それは……師匠の……師匠の……術………」
サクラは最後の力を振り絞って、サキュールの足へと手を伸ばす。
「邪魔だナ」
サキュールはサクラを蹴飛ばした。
次第にサクラの意識が薄れていく。
「サキュールよおおお!!!良い事考え…ぜぇぇ……」
「な…だ?」
「こい……………利用…………ぜぇぇぇ!!!」
「…………なる…ネ。そーいえばさっきコイツの家族………」
「そ……よそれええ…………ぇ!!」
「…………」
サクラの意識は完全に途切れた。




