朧の里
遡ること三年前
辺境の地にひっそりと佇む里
朧の里
サクラはそこで平和な日々を送っていた。
父は物心つく前に亡くなっており、母と妹の巴とサクラ3人で一緒に暮らしていた。
朧の里は世界からは存在さえ知られていない小さな小さな集落で、住民も80人弱である。
「「「「「はっ!はっ!はあああああ!!!」」」」」
「サクラ!腰が高い!何度言ったら分かる!」
「はいっ!師匠!」
師匠と呼ばれている者から複数の若者たちが稽古を受けている。
サクラもその中の一人だ。
「サクラ、お前が伝承者候補にあがっているのは知っているだろ。お前が腑抜けていてどうする!気合いを入れなおせ!!」
「はいっ!!!」
朧の里の住民は、一般的な魔法や武術とは系統が違う特殊な技を駆使して戦う。
当然、それを後生に引き継ぐ役を担う者が必要となってくる。
それが先ほどサクラに向け言われた、伝承者である。
師匠と呼ばれていた男が現在の伝承者だが、年齢は60歳近くでそろそろ引退の時期なのだ。
サクラは稽古を受けている若者達の中でも最年長で、成績も中では軍を抜いていた。
よって、自然に里の中ではサクラが次の伝承者となるだろうと話があがっている。
師匠はより一層厳しくサクラに稽古をつけていた。
サクラ自身もそれをそこまで嫌だと思ってもおらず、自分はこの先、里の誰かと結婚をし、子供を産み、伝承者として里の技を指導しながら、一生をこの里で平和に終えるのだろうと思っていた。
あの惨劇が起こるまでは。
「母さん、トモエ!今帰ったぞ!」
「お疲れ様」
「おかえり!お姉ちゃん!」
トモエがサクラに走り寄ってくる。
「伝承者様は大変だね!」
「いや、まだ私と決まった訳じゃないからな。でも伝承者になれば母さんもトモエも裕福な暮らしができる様にきっとなる。お姉ちゃん頑張るぞ!」
「頑張れお姉ちゃん!」
妹が笑顔で応援してくれる。サクラはもうそれだけで幸せだった。
トモエもサクラと同じ様に普段は稽古をつけて貰っていたが、風邪をひいて2、3日お休みしていた。
トモエもサクラがいなかったら間違いなく伝承者になるであろう素質の持ち主で、里の住民が、今回の伝承者は二人選ばれるんじゃないかと噂する程であった。
「トモエ、今日は早く寝ないとダメなんだぞ~」
「分かってるよ!お姉ちゃんは心配性だな~」
「ふふ、分かってるならいいんだ」
「おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみ、トモエ」
二人はいつも通りの日常会話をし、トモエの風邪の事も考え、サクラも一緒に早く寝た。
(今日は早く寝るから明日の稽古がはかどりそうだな!早く新しい術も覚えて、師匠に認めて貰わないと!)
明日が待ち遠しくワクワクしておりちゃんと眠れるか少し心配したが、稽古で疲れたのもあってサクラはスッと眠りに入った。
そして、誰もが寝静まった深夜の事である。
カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!
「襲撃!!!襲撃だーーーーーーーッッッ!!!!!」
深夜に大きな鐘の音と声が鳴り響いた。
慌ててサクラ達は起きる。
「な、何が起きたのだ!?」
「お姉ちゃん、怖いよ・・・」
「大丈夫だトモエ、私が付いている。母さんは中にいて。私が外の様子を見てくる」
「やめなさい!危険よ!」
「母さん!・・・私はこれでも次期伝承者候補。少しは頼って欲しい」
「・・・・・外には出ちゃダメよ。様子を伺ったらすぐ戻ってきなさい!」
「了解した!」
母とトモエを部屋に残して、得意の忍び足で玄関先まで向かいそっと戸をあけてみる。
「な、何だこれは・・・!」
外は火の海だった。
家という家にはすべて火がついており、住民の叫び声や怒号の声が飛び交っていた。
どんな輩が里を襲っているのかと外に出て周りの様子を見ると
「・・・ピエロ?」
里を襲っていたのはピエロの様な恰好をした、まるでサーカス団を想像させる様な風貌の者達だった。
人数的には10人程しか伺えない。
しかし、地面には里の住民の死体がいっぱい転がっており、明らかに実力的に劣勢だった。
(こんな少人数に朧の里が敗れるはずがない!どういう事だ・・・・!私は・・・戦う?母さんとトモエを連れて逃げる?・・・・・落ち着け私!)
サクラが今自分は何をすべきか考え込んでいると
ズドォォォオオオオーーーーーーーンッッッ!!!
「・・・え?」
・・・自分の後ろから大きな物音が響き渡り、サクラはゆっくりと後ろを振り返る
「そ、そんな・・・・・・・・・・・!母さん!!!トモエェェェッッッ!!!!!」
自分の家が見事に壊滅していた。
一瞬の出来事すぎてサクラはすぐには状況が理解できなかった。
理解できたのは自分が何か大きな影の下にいる事だけ。
そして、サクラはゆっくりと上を見上げた。
そこには・・・・・10mはあるだろうか。
同じ人間と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる太っちょなピエロが不気味な笑みを浮かべ立っていた。




