赤の豹変
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「す、すまなかった!い、いてえ!」
「何がだ?」
武道場の真ん中には試験管の片腕を掴んでいるルイがいた。
試験管の腕からはミシミシと音が鳴り始める。
それはルイの手が肉に食い込んでいく音なのか、はたまた骨が軋む音なのかは分からない。
「謝る!だから腕をはなしてくれ!折れちまう!」
「何に対して謝るんだ?なあ」
「ちゃんと試験を始めなくて悪かった!」
「そっちじゃねえだろ?」
いつものルイでは無かった。
いつものルイは少し常軌を逸したところもあるが普段はどこにでもいるような至って普通の青年だ。
それが今はどうだろうか。
今のルイはリンの暮らしていた女神像の部屋へ向かう時と同じ顔をしていた。
まるで鬼が宿ったかのような状態だ。
瞳もいつもは黒色なのに何故か赤色に染まっている。
「お、女には手ださねえよ!だから!」
「だから何だ?」
「腕をはなしてくれえ!!!」
「・・・」
ルイは無言でそのまま尚、腕に力を込めた。
「うああああああああああ!!!!!!」
「ダメですルイさん!!!」
リンがこれ以上はマズイと思い掴んでいない方のルイの腕を掴んで引き離そうとする。
「これ以上やってはダメです!」
「何でだ?まだ3分たっていない」
「もういいんです!もう!」
「俺は仲間をコケにするような奴は許せない」
「もう私は怒ってませんから!」
「俺が怒ってる」
「言う事聞いてください!キャ!」
ルイはリンを軽く突き飛ばした。
その拍子でリンは後ろへ倒れこんでしまった。
ルイは完全に正気を失っている。
リンの力ではどうにもならないようだ。
「おい!誰か俺を助けろ!!!」
「「「「「・・・・・」」」」」
見習い騎士達に試験管が呼びかけるが誰も答えない。
それは普段からの試験管への恨みと今のルイに対する恐怖からだろう。
だが少数だが動き出した者がおり、部屋を出て助けを求めに行く者や、壁にかけてある電話で救援の連絡をする者が現れた。
そうこうしている内にルイは試験管の両腕を掴み始めた。
「や、やめろおおおお!!!!!いたいいいぃぃぃ!!!!」
「お前が悪いんだろ?」
「謝ってるだろおおおおがあああ!!!」
「・・・」
リンも自分ではどうする事もできないと気付き見つめる事しかできない。
ルイの掴む力はどんどん強くなっていく。
そして不可解な音が武道場に鳴り響いた。
ボキボキッ
「・・・・・え?・・・ぐああああああああああああああ!!!!!!!!」
試験管の両腕はあらぬ方向へと曲がってしまっていた。
ルイが完全に腕をへし折ってしまったのだ。
ルイの両手には試験管の腕から滲み出た血がべっとりついている。
「ル、ルイさん・・・」
出会ってからルイにくっつきまわって親しくしていたリンでさえ今は恐怖の眼差しでルイを見つめていた。
「・・・あ、あれ・・・俺・・・・・・」
ルイは腕をへし折って満足したのか段々と正気に戻りつつあった。
瞳も黒色に戻り、宿っていた鬼のような人格もなくなっていた。
ルイが状況を把握するのに時間がかかっている所で武道場のドアが勢いよく開かれた。
「志願兵が暴れていると報告があってきた!ここで合っているか!?」
開けた勢いのままで青のスマートな鎧を着た男がズカズカと武道場の中央まで来た。
「・・・・・!!貴様か!?」
「お、俺は・・・」
「付いてきてもらうぞ」
「い、いやグハッ」
鎧の男がルイの腹を殴った。
頑丈なルイの身体を腕が貫通してしまうかのような勢いで。
ルイは目をカッと開くとすぐに気絶してしまった。
鎧の男はルイを片手で持ち上げ肩にのせた。
「君達は救護班を呼んでくれ!試験管を早く手当しないと!演習の再会はその後だ!代わりの指導員を呼んでおく!僕はこの暴力男を最下層の牢屋へ連れて行く」
「ル、ルイさん!」
「・・・君はこの男の仲間かい?」
「・・・そうです」
「そうか、付いてきてくれ。君にも色々聞きたい」
「分かりました」
こうしてルイとリンは思わぬ形で最下層へ向かう事になってしまうのだった。




