始まり
「ぅ、うーーーん・・・いい天気。こんな日に出発って最高」
青い晴天の中、一人の青年が背筋を伸ばしながら言った。
彼が立っているのは大きな船の上。海の上でユラリユラリと揺れる船の上である。
もうすぐ陸地へ到着するであろうと期待し中で待ちくたびれていた同乗者も甲板へあがってくる。
「今回は長かったな」
「丸七日ってとこか?」
「何ボケてんだ?丸八日だぞ?」
「いや七日だろ!?」
「ちげーって言ってんだろ!」
同乗者だった盗賊の様な見た目をした輩が言い合いをしている。
船の先端で手を腰にあて気持ちよく伸びていた青年は言った。
「落ち着いて落ち着いて」
「あぁん?」
「なんだお前?」
「やっと着いたんだから。今は到着を喜ぶべきだって!」
彼が笑顔で言ったと同時に風が彼の髪の隙間をふわっと通る。
そんな爽やかに言われてしまうと、輩達も気がそれてしまった。
「・・・それもそうだな」
「悪かった」
「うんうん」
彼のおかげでまた甲板に和気藹々とした空気が戻った。
甲板には彼を含め約30人弱の人がいる。
家族連れや、傭兵。またはさっきの様な輩もいたりと様々である。
「到着するぞ~い」
船長が言った。
気付けば陸地は目の前である。
「船旅ともおさらばか。長かったけど、優雅な休日だったと思えば良いよな」
登場から常にポジティブな思考しか発揮しない彼の名は
ルイ・クローバー
である。
少しだけ長めの黒髪で服は上下黒色。背は平均男性より少し高めである。特徴といえば笑うと八重歯がちらっとみえるとこぐらいで、他は至って普通の青年だ。
左耳に珍しい色を放つ瑠璃色の珠がついたピアスをぶら下げており、背中に立派な剣が二本刺さっている。
「お先に行くとするか。よっこらせっ!」
ルイが船から一番乗りで降りた。
30人もいる中でよく先頭にでれたものだ、と普通思うがそれには理由がある。
「おいおい・・・今の見たか?」
「おう」
「あいつ今何した?」
「飛んだ」
「いやそれは分かるんだけども・・・」
輩が驚くのも無理はない。
なぜなら彼はまだ船から陸地まで結構な距離があるというのに、海の間をアクロバティックな動きで空中を何回転もして飛び超えてしまったのだ。
これには甲板にでていた人達も思わず拍手をこぼしていた。
「すげぇやつがいるもんだな。常人離れした身体してんだろうな」
「ウチのお嬢ほどじゃないでしょ」
「だーれがムッキムキ野郎だって?」
輩達が話してた後ろから長い黒髪の女性が現れた。
「お嬢!ムッキムキ野郎とは言ってないです!」
「なーんかそんな事考えてる様なオーラを感じたけど」
「そんな事ないっすよ!」
「そ、ならイイけど」
輩は笑顔を必死に作ってヘコヘコしていた。
(にしてもあの黒服の子・・・なーんか見た事ある顔の様な・・・またどこかで出会う気がする)
そう言うと黒髪の女性はイスに足を組んで座り、手にアゴをのせて彼を見送るのだった。
「せんちょー!運転ありがとなー!元気でーー!」
「頑張るんじゃぞー!」
ルイは長い船旅のおかげで船長と仲良くなっていたらしい。
まだ船は到着していないが、先にルイから預かっていた船代の入った封筒を船長は覗き始めた。
「ん?なんじゃこれは」
封筒が触って分かるぐらいにゴツゴツしている。
「これは・・・。お茶目なやつだの〜」
中にはお金と一緒に大量の飴玉が入っていた。
お返しはできんからな、と小さく呟き、船長は飴玉を一つ口の中へ放り込んだ。
「あ、しまった!飴玉全部船長にあげちゃった!飴食べながら景気よく出発しようと思ったのにな~」
ルイはガクッと一瞬だけ肩を落とした。
しかしもののすぐに復活し、ルイは港を後にし都市の中へと走って行った。
ルイ・クローバーの大きな冒険の幕開けである。